「毎日歩いているから大丈夫」は本当?何歳になっても歩き続けるために必要なこと【札幌・琴似】
2026/08/20
「正しく歩く」シリーズ 最終回
これまで4回にわたり、「歩く」という当たり前の動作を、 最新研究と歩行の仕組みから考えてきました。
▶ 第1回|歩き方は「健康の通信簿」?正しく歩くということ
▶ 第2回|なぜ年齢とともに歩幅が狭くなる?「前に足を出す」だけでは歩幅は広がらない
▶ 第3回|歩く速さは「体力の通信簿」?歩行速度と健康寿命の深い関係
▶ 第4回|歩くことは身体と脳をどう変える?「1日1万歩」にこだわらなくていい理由
「私は毎日歩いているから、足腰は大丈夫です」
このようにお話しされる方は少なくありません。
もちろん、 毎日歩くことはとても大切です。
第4回でも紹介したように、 日常的に歩くことは、 心血管疾患、糖尿病、認知症、死亡リスクなど、 さまざまな健康状態と関係しています。
では、
毎日歩いていれば、
何歳になっても歩く力は維持できるのでしょうか?
答えは、 「歩くことは必要。でも、それだけでは十分ではない場合がある」 です。
「歩くこと」と、
「歩くための身体能力を鍛えること」は、
似ているようで少し違います。
毎日歩いていれば、筋力トレーニングは必要ない?
結論
歩くことは健康維持に非常に重要ですが、 筋力・筋パワー・バランス能力などを維持するためには、 歩行だけでは十分な刺激にならない場合があります。
将来も歩き続けるためには、 「歩く」ことに加えて、 筋力トレーニングやバランス練習などを組み合わせることが重要です。
そもそも「歩く」ためには何が必要なのでしょうか?
歩行は一見すると、 左右の脚を交互に出しているだけの単純な運動に見えます。
しかし実際には、
- 身体を支える筋力
- 素早く力を出す筋パワー
- 片脚で身体を支えるバランス能力
- 股関節・膝・足首の関節可動性
- 身体を前へ送る足首の働き
- 左右の脚を切り替える神経・協調性
- 歩き続けるための心肺持久力
など、多くの能力が同時に必要になります。
歩くという動作は、 これらを組み合わせた「結果」なのです。
歩くことは「今ある能力を使う運動」
例えば、椅子から立ち上がることを考えてみましょう。
毎日何度も椅子から立ち上がっているからといって、 それだけで脚の筋力がどんどん強くなるとは限りません。
身体は、 今持っている筋力を使って立ち上がっています。
歩行も同じです。
毎日歩くことで持久力や身体活動量を維持することはできますが、 普段と同じ速度・同じ歩幅・同じ負荷で歩いているだけでは、 筋力をさらに高めるほどの刺激にならない場合があります。
歩くこと
=
今ある身体能力を使う
筋力・バランス練習
=
歩くための能力そのものに刺激を入れる
もちろん完全に別々というわけではありません。
速歩や坂道歩行など、 歩き方によっては筋肉への刺激も大きくなります。
しかし、 「歩いているから筋力トレーニングは必要ない」 とは言い切れません。
2026年、92研究が示した「筋力トレーニング」の効果
2026年3月、 高齢者に対するレジスタンストレーニングと歩行能力について、 非常に大規模なシステマティックレビュー・メタ解析が発表されました。
対象となったのは、 92研究、5,932人。 平均年齢は約73歳でした。
その結果、 レジスタンストレーニングによって、
- 筋力
- 歩行速度
- 歩行距離
- 立ち座り能力
- Timed Up & Go(TUG)
などの改善が確認されました。
特に、
- スクワット
- レッグプレス
- 膝伸展運動
- 足関節底屈運動(踵上げなど)
といった下肢を使う運動が、 歩行関連の機能改善と関係していました。
歩く力を維持したいなら、
「歩くだけ」ではなく、
歩くために必要な脚の筋力そのものを鍛えることも大切です。
ただし「筋トレだけすればよい」わけでもありません
ここも非常に重要です。
先ほどの2026年の研究では、 筋力や歩行速度、TUGなどは改善しました。
しかし、 歩幅や歩行の細かな時間・空間的特徴、歩行中の力学的パターンについては、 明確な改善がみられない項目もありました。
つまり、
筋力がつけば、自動的に「歩き方」まですべて改善するわけではありません。
筋力は歩くための大切な土台ですが、 その力を実際の歩行の中で使えるようにするには、 歩行練習やバランス練習なども必要になります。
これは、 このシリーズで最初からお伝えしてきた 「歩行は複雑な運動である」 ということにもつながります。
「筋力」だけでなく「素早く力を出す能力」も大切
例えば横断歩道を歩いている途中で、 信号が点滅したとします。
そのとき必要なのは、 ゆっくり大きな力を出せることだけではありません。
短い時間で力を出して、歩行速度を上げる能力 が必要です。
これを筋パワーと呼びます。
また、 つまずいたときに素早く一歩を出す、 階段を上がる、 椅子から素早く立ち上がる、といった動作にも 筋パワーが関係します。
高齢者を対象としたメタ解析では、 通常の筋力トレーニングと比べて、 持ち上げる局面をできるだけ速く行う パワートレーニングによって、 身体機能がわずかに大きく改善する可能性が報告されています。
高齢者だからといって、 すべての運動を「ゆっくり」行えばよいとは限りません。
安全が確保できる方では、 素早く立つ、少し速く歩く、素早く一歩を出す といった「速度」を使う能力も重要になります。
ただし、転倒リスクや関節疾患などによって適切な方法は異なります。 無理に速い運動を行う必要はありません。
歩くということは「片脚立ちの連続」
歩行では、 両足がずっと地面についているわけではありません。
左右交互に、 片脚で身体を支える時間があります。
そのため、 歩き続けるにはバランス能力も必要です。
毎日平らな道を同じ速度で歩いているだけでは、
- 片脚で安定する
- 身体を左右へ移動する
- 急に一歩を出す
- バランスを崩したときに立て直す
といった能力に、 十分な刺激が入らないことがあります。
2026年に45のランダム化比較試験、 16,240人をまとめたネットワークメタ解析では、 多要素運動やバランストレーニングなどが、 高齢者の転倒関連アウトカムを改善する可能性が示されました。
単に歩く量を増やすだけではなく、 バランス能力そのものを練習する意味があります。
だから「いろいろな能力」を組み合わせて鍛える
2024年には、 フレイルのある高齢者を対象とした 28のランダム化比較試験、4,857人をまとめた メタ解析が発表されています。
筋力運動、バランス運動、有酸素運動などを組み合わせた 多要素運動(multicomponent exercise)を行うことで、
- 筋力
- 歩行速度
- バランス能力
- SPPB
- Timed Up & Go
などの身体機能が改善しました。
歩き続けるために必要なのは、 「歩く練習」だけではありません。
歩く + 筋力 + バランス + 速さ
さまざまな能力を組み合わせて保つことが、 将来の「歩く力」につながります。
世界の運動指針も「歩くだけ」を勧めているわけではない
WHO(世界保健機関)でも、 高齢者の身体活動について、 有酸素運動だけを勧めているわけではありません。
65歳以上では、 成人と同様に週を通して有酸素運動を行うことに加え、 筋力と機能的バランスを重視した多要素運動を 週3日以上取り入れることが推奨されています。
つまり健康のためには、
① 歩く・身体を動かす
心肺機能、身体活動量、健康維持
② 筋力を鍛える
立つ、支える、階段、歩行の土台
③ バランスを鍛える
片脚支持、方向転換、転倒への対応
という組み合わせが重要になります。
「歩く力」を保つために、何をすればよい?
特別な運動をたくさん行う必要はありません。
重要なのは、 歩行だけでは刺激しにくい能力を補うことです。
① 立ち座り・スクワット
太ももやお尻の筋肉を使い、 身体を支える力を鍛えます。
椅子から立つ・座る動作を繰り返すだけでも、 体力に応じて筋力練習になります。
② 踵上げ
第2回で解説したように、 歩行後半で身体を前へ送るためには 足首・ふくらはぎの働きが重要です。
安全な場所での踵上げは、 この能力を鍛える一つの方法です。
③ 片脚支持・ステップ練習
歩行は片脚支持の連続です。
手すりなど安全を確保した状態で、 片脚支持や前後・左右へのステップを練習することで、 歩行に必要なバランス能力へ刺激を入れることができます。
④ 少し速く歩く
安全に歩ける方では、 いつも同じ速度だけではなく、 短い時間だけ少し速度を上げてみることも一つの方法です。
重要なのは、 常に速く歩くことではなく、必要なときに速度を上げられる余力を保つこと です。
⑤ そして、普段から歩く
筋力トレーニングだけして、 普段まったく歩かなければよいわけでもありません。
第4回で紹介したように、 日常的な歩行には全身の健康に対する大きな意味があります。
だから、
「歩くか、筋トレか」ではありません。
歩く。
筋力をつける。
バランスを練習する。
必要な速さを出せるようにする。
それぞれに役割があります。
大切なのは「自分に何が足りないのか」を知ること
ここまで読むと、
「全部やらなければいけないの?」
と思うかもしれません。
しかし、 すべての方に同じ運動が必要なわけではありません。
例えば、
- 筋力はあるけれどバランスが悪い人
- 毎日歩いているけれど歩行速度が遅くなっている人
- 歩行速度は保たれているけれど歩幅が狭くなっている人
- 脚力はあるけれど足首が十分に使えていない人
- 痛みのために歩行量そのものが減っている人
では、必要な運動が違います。
「高齢者だから、この運動」ではありません。
今の歩き方、筋力、バランス、関節の動きなどを確認し、 何が歩行の制限になっているのかを考えることが大切です。
「歩いているから大丈夫」で終わらせず、確認してほしいこと
- 椅子から手を使わず立てますか?
- 以前と同じ速さで歩けていますか?
- 歩幅が以前より小さくなっていませんか?
- 少し急ぐことができますか?
- 片脚で身体を安定して支えられますか?
- つまずきやふらつきが増えていませんか?
- 長く歩いても極端に速度が落ちませんか?
歩数だけでは見えない変化があります。
だからこそ、 「どのくらい歩いたか」だけでなく、「どのように歩けているか」 を見ることが重要です。
5回シリーズでお伝えしたかったこと
今回のシリーズでは、 「正しく歩く」ということを5つの視点から考えてきました。
第1回 正しく歩くとは?
歩行は複雑だからこそ、実際の指示はシンプルに。
第2回 歩幅
前の足を遠くへ出すのではなく、 後ろ脚から身体を前へ運んだ結果として歩幅が生まれる。
第3回 歩行速度
歩く速さには筋力・バランス・心肺機能など、 身体全体の余力が表れる。
第4回 歩くことの健康効果
1万歩にこだわらず、 今より身体活動量を増やすことに意味がある。
第5回 歩き続けるために
歩くことに加えて、 筋力・バランス・速さなどを維持する必要がある。
何歳になっても、自分の足で行きたい場所へ
「歩く」という動作は、 あまりにも当たり前です。
そのため、 歩けなくなって初めて、 その大切さに気づくこともあります。
でも本当に大切なのは、 歩けなくなってから考えることではありません。
今、歩けているうちに「歩く力」を守る。
歩く。
身体を支える。
必要な歩幅を出す。
必要なときに少し速く歩く。
バランスを崩しても立て直す。
こうした能力をできるだけ長く保つことが、
自分の足で生活し続けることにつながります。
歩数を増やすことも大切です。
でも、 「何歩歩いたか」だけで安心しない。
以前と比べて、 歩幅、速度、筋力、バランスが変わっていないか。
自分の身体の変化を、 ときどき確認してみてください。
何歳になっても、自分の足で好きな場所へ行ける身体を。
そのために、 今日からできることを少しずつ続けていきましょう。
「正しく歩く」シリーズ
▶ 第2回|なぜ年齢とともに歩幅が狭くなる?「前に足を出す」だけでは歩幅は広がらない
▶ 第3回|歩く速さは「体力の通信簿」?歩行速度と健康寿命の深い関係
歩く力についてよくある質問
Q. 毎日歩いていれば筋力トレーニングは必要ありませんか?
歩行は大切な身体活動ですが、 筋力や筋パワーを維持・向上させるには、 歩行だけでは十分な刺激にならない場合があります。 立ち座り、スクワット、踵上げなど、 体力に合わせた筋力運動を組み合わせることが大切です。
Q. 高齢者にはどのような運動が必要ですか?
歩行などの有酸素運動だけではなく、 筋力運動やバランス運動などを組み合わせることが推奨されています。 WHOでも、高齢者には筋力と機能的バランスを重視した 多要素運動を取り入れることが推奨されています。
Q. 筋力があれば転倒しませんか?
筋力は重要ですが、転倒にはバランス能力、視覚、感覚機能、 反応速度、薬剤、環境などさまざまな要因が関係します。 筋力だけではなく、バランスやステップ能力なども重要です。
Q. 何歳から筋力トレーニングを始めても遅くありませんか?
高齢者を対象とした多くの研究で、 筋力トレーニングによる筋力や身体機能の改善が報告されています。 ただし、疾患や関節痛、転倒リスクがある方では、 運動方法や負荷を個別に調整する必要があります。
Q. 自分に必要な運動はどうやって判断しますか?
歩行速度、歩幅、筋力、バランス、関節可動域、 痛み、日常生活で困っている動作などを確認し、 何が歩行を制限しているのかを考えることが重要です。 不安がある場合は、理学療法士などの専門職に相談してください。
この記事を書いた人
成田 悟志(理学療法士)
株式会社プライズライフ 代表取締役/リハビリジム プライズネス代表。
医療・リハビリの臨床経験をもとに、 歩行、筋力、介護予防、健康寿命について、 医学的根拠を踏まえてわかりやすく情報を発信しています。
参考文献
- Jochum D, Siegel SD, Plöschberger G, Fenske L, Warneke K. Resistance training effects on gait parameters in older adults: a systematic review with multilevel meta-analysis and meta-regression. GeroScience. 2026.
PubMed - Yang X, Li S, Xu L, et al. Effects of multicomponent exercise on frailty status and physical function in frail older adults: A meta-analysis and systematic review. Exp Gerontol. 2024;197:112604.
PubMed - Balachandran AT, Steele J, Angielczyk D, et al. Comparison of Power Training vs Traditional Strength Training on Physical Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2022;5(5):e2211623.
PubMed - Lopez P, Rech A, Petropoulou M, et al. Does High-Velocity Resistance Exercise Elicit Greater Physical Function Benefits Than Traditional Resistance Exercise in Older Adults? A Systematic Review and Network Meta-Analysis of 79 Trials. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2023;78(8):1471-1482.
PubMed - Comparing the effects of different exercises on falls in older adults: A network meta-analysis of randomized controlled trials. 2026.
PubMed - World Health Organization. WHO Guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020.
WHO
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