歩き方は「健康の通信簿」だった?最新研究から考える“正しく歩く”ということ【札幌・琴似】
2026/08/12
最近、歩くのが遅くなった。
歩幅が小さくなった。
横断歩道を渡るのに、以前より余裕がなくなった。
こうした変化を「年齢だから仕方がない」と思っていませんか?
実は近年、医学や老年学の分野では、 「どのように歩けているか」が、その人の身体機能や健康状態を映す重要な指標 として研究されています。
歩くという動作には、脚の筋力だけではありません。 バランス能力、関節の動き、神経・感覚機能、心肺機能など、 さまざまな身体機能が同時に関わっています。
歩き方の変化は、単なる「クセ」ではなく、
身体の変化が表れている可能性があります。
最新研究では「何歩歩いたか」だけを見ていない
健康のために歩くというと、 「今日は何歩歩いたか?」という歩数を意識する方が多いと思います。
もちろん、身体活動量を知るうえで歩数は大切です。
しかし近年は、 「どれだけ歩いたか」だけでなく、「どのように歩いているか」 にも注目が集まっています。
2025年に発表されたUK Biobankの研究では、 60~78歳の38,766人を対象に、 手首に装着したセンサーから日常生活での歩行を分析しました。
約9年間の追跡データを解析した結果、 心血管疾患による死亡との関連がみられたのは、 単純な歩数だけではありませんでした。
- 最大歩行速度が遅いこと
- 走るような速い移動の時間が少ないこと
- 短い距離の歩行ばかりになっていること
つまり、現在の歩行研究では、 歩数だけでなく、歩行速度や日常生活の歩き方そのものも 健康状態を考える材料になってきています。
歩数と健康について詳しく知りたい方へ
「健康のためには1日1万歩必要なの?」という疑問については、 こちらの記事で最新研究をもとに詳しく解説しています。
▶ 「1日1万歩」はもう古い? 最新研究が示す“本当に効く歩数”とは
歩く速さには、身体の「余力」が表れる
歩行研究の中でも、特に重要な指標として研究されているのが 歩行速度です。
2024年には、平均年齢約74歳の3,048人を長期間追跡し、 歩行速度の変化と生命予後との関係を調べた研究が報告されています。
その結果、歩行速度が0.1m/秒速いことは、 男性では約23%、女性では約25%低い死亡リスクと関連していました。
これは「速く歩けば長生きする」という意味ではありません。
速く歩ける人ほど、筋力、バランス能力、心肺機能など、 歩行に必要な身体機能が保たれている可能性があります。
つまり歩行速度は、 身体にどのくらい「余力」が残っているかを見る一つの指標 と考えることができます。
2025年には「歩き方」からフレイルを捉える研究も
さらに研究は進んでいます。
2025年に医学誌 Age and Ageingに発表されたUK Biobankの研究では、 10,156人の中高年者を対象に、 手首型ウェアラブル機器で測定した日常生活の歩行データから フレイルを評価しました。
研究で評価されたのは、単純な歩数だけではありません。
- 歩く速度
- 歩く量
- 歩行の質
- 歩行中の腕の動き
こうした歩行データから評価したフレイルは、 その後の入院や死亡を予測する指標となり、 従来のフレイル評価法に劣らない予測性能が示されました。
歩行は毎日行っている、とても身近な動作です。
だからこそ、 「以前と比べてどう歩けているか」を見ることには、 大きな意味があります。
では、「正しく歩く」とは何でしょうか?
正しく歩くとは?
身体を安定して支えながら、重心を前へ移動させ、 その人に必要な歩幅と速度で、無理なく歩き続けられることです。
しかし、ここで一つ大切なことがあります。
歩行の仕組みは非常に複雑です。
姿勢、骨盤、股関節、膝関節、足関節、足部、 筋力、バランス、重心移動、腕振りなど、 たくさんの要素がほぼ同時に働いています。
だからといって、 それらをすべて考えながら歩けばよいわけではありません。
歩行は複雑。だからこそ、歩くときの指示はシンプルに
歩くときに、
「骨盤をこう動かして」
「膝をこの角度にして」
「足首をこう使って」
「腕をこのくらい振って」
と、たくさんのことを同時に意識すると、 かえって自然な歩行が崩れてしまうことがあります。
歩行は、本来ほとんど無意識に繰り返している動作です。
そのため、私が歩き方をお伝えするときは、 歩行状態を確認したうえで、必要以上に細かな指示を出さず、 ポイントを絞ってお伝えすることがあります。
歩くときに意識してほしい3つのポイント
① 背筋を伸ばす
② 踵付近から入る
③ いつもより少し大股で歩く
シンプルな言葉ですが、 それぞれには歩行の仕組みに基づいた理由があります。
なお、歩行状態や疾患、痛みなどによって適切な歩き方は異なります。 すべての方に同じ歩き方を当てはめるという意味ではありません。
① なぜ「背筋を伸ばす」のか?
歩くためには、まず身体を前へ運びやすい姿勢をつくる必要があります。
身体が大きく前かがみになると、 股関節を後ろへ伸ばしにくくなったり、 歩幅が小さくなったりすることがあります。
そのため、 頭から体幹を起こして、身体を前へ運びやすい姿勢をつくる という意味で「背筋を伸ばす」とお伝えします。
ただし、腰を強く反らせるという意味ではありません。
無理なく身体を起こし、前を見て歩ける姿勢 をイメージしてください。
② なぜ「踵から入る」のか?
一般的な平地歩行で、踵からの接地が可能な方では、 踵付近から地面に接することが、その後の重心移動のスタート になります。
歩行では、足を地面についた瞬間から、 身体の重さを受け止めながら次の一歩へ進む準備が始まります。
踵付近から接地すると、 足首や膝などが働きながら身体にかかる衝撃を受け止め、 その後、足底全体へ荷重が移っていきます。
↓
身体の重さ・衝撃を受け止める
↓
足底全体へ荷重が移る
↓
身体が支持している足の上を通過する
↓
前足部へ重心が移る
↓
後ろ脚から身体を前へ送り出す
↓
次の一歩へ
つまり、 「踵を地面につけること」だけが目的ではありません。
踵付近から接地することで、 そこから足底、前足部へと重心を移していき、 最終的に次の一歩へ身体をつなげていきます。
踵接地は「ゴール」ではなく、
その後のスムーズな重心移動をつくる「スタート」です。
だから私は、 踵を強く地面へ打ちつけるように歩いてほしいという意味ではなく、 自然に踵付近から接地し、その後の重心移動につなげる ことを意識してもらうために「踵から」とお伝えしています。
③ なぜ「少し大股で歩く」のか?
歩幅が小さくなっている方には、 「いつもより少し大股で」とお伝えすることがあります。
ここでも誤解してほしくないのは、 前の足を無理に遠くへ伸ばすという意味ではないことです。
歩行では、身体が支持している脚の上を通過し、 後ろ側の脚まで使って身体を前へ送ります。
身体が前へ進むことで、 結果として反対側の脚がいつもより少し前へ出て、 歩幅が生まれます。
「大股=前の足だけを遠くへ出す」ではありません。
身体そのものを前へ運んだ結果として、 一歩が少し大きくなることが理想です。
この「歩幅」については、 年齢とともに起こる歩行の変化と非常に深い関係があります。
専門家は細かく見る。でも、歩く本人は全部を考えなくてよい
理学療法士が歩行を評価するときには、 姿勢、歩幅、歩行速度、左右差、重心移動、股関節・膝・足関節の動き、 足部の使い方など、さまざまな要素を確認します。
しかし、 評価する側が細かく見ることと、歩く本人がすべてを意識することは別です。
専門家は複雑な歩行の中から、 「今、この方に必要なのは何か」を考えます。
そして実際に歩いてもらうときには、 できるだけ分かりやすい言葉に絞って伝える。
歩行の仕組みを理解することと、
歩くときにすべてを意識することは別です。
歩行は複雑だからこそ、
実際に歩くときはシンプルに。
まずは「以前の自分との違い」を確認してください
自分の歩行が変化しているかどうかは、 日常生活の中でも気づくことができます。
こんな変化はありませんか?
- 一緒に歩く人から「歩くのが遅くなった」と言われた
- 以前より歩幅が小さくなった
- 横断歩道を急いで渡ることが難しくなった
- つまずくことが増えた
- 以前より長く歩けなくなった
重要なのは、他人と比べることではありません。
「半年前、1年前の自分と比べて、歩き方が変わっていないか」
という視点です。
「最近、歩くのが不安」と感じている方へ
歩行速度の低下や歩幅の減少、つまずきなど、 転倒する前に気づきたい変化についてはこちらの記事でも解説しています。
▶ 最近、歩くのが不安になってきた方へ|転ぶ前に見ておきたいこと
正しく歩くために、大切なのは「流れ」です
「背筋を伸ばす」
「踵付近から入る」
「いつもより少し大股で歩く」
一見すると、とてもシンプルな指示です。
しかしその背景には、 姿勢を整え、接地時の衝撃を受け止め、 足底から前足部へ重心を移し、 後ろ脚から身体を前へ送り出すという 一連の歩行の流れがあります。
正しく歩くとは、
「難しいことをたくさん考えながら歩くこと」ではありません。
自分の身体をしっかり支え、
接地から重心を前へ移し、
必要な歩幅で身体を前へ送りながら、
無理なく歩き続けられること。
それが「歩く力」です。
そして、この歩く力の中でも、 年齢とともに変化が表れやすいものの一つが 「歩幅」です。
では、なぜ年齢を重ねると歩幅は狭くなるのでしょうか?
実は「脚が前へ出なくなる」だけではありません。
後ろ脚、足首の力、前足部への重心移動が 大きく関係しています。
次回 第2回
なぜ年齢とともに歩幅が狭くなるのか?
歩幅を広げるために大切なのは、 「前の足を遠くへ出すこと」だけではありません。
加齢によって変化する 前足部への重心移動・足首の力・後ろ脚の働きから、 歩幅が狭くなる理由を詳しく解説します。
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この記事を書いた人
成田 悟志(理学療法士)
株式会社プライズライフ 代表取締役/リハビリジム プライズネス代表。
医療・リハビリの臨床経験をもとに、 歩行、筋力、介護予防、健康寿命について、 医学的根拠を踏まえてわかりやすく情報を発信しています。
参考文献
- Herrero Pinilla B, et al. More than step counts: Slow walking speed, limited running, and fewer long walks predict cardiovascular mortality in the Walk Watch UK Biobank study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2025;80(10):glaf184.
PubMed - Osuka Y, Chan LLY, Brodie MA, Okubo Y, Lord SR. Frailty assessed by a wrist-worn device can predict hospitalisation and mortality in middle-aged and older adults: a UK Biobank study. Age Ageing. 2025;54(8):afaf210.
PubMed - Perera S, Zhang X, Patterson CG, Boudreau RM. Serial gait speed measurements over time and dynamic survival prediction in older adults. J Nutr Health Aging. 2024;28(9):100330.
PubMed - Judge JO, Davis RB 3rd, Ounpuu S. Step length reductions in advanced age: the role of ankle and hip kinetics. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1996;51(6):M303-M312.
PubMed
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