ジュニアアスリートに筋トレはまだ早い?ケガ予防と身体づくりの科学【札幌・琴似】
2026/08/27
ジュニアアスリートに筋トレはまだ早い?
ケガ予防とパフォーマンスを支える「身体の土台」
「小学生に筋トレはまだ早い」
「中学生までは技術練習を中心にした方がいい」
「筋トレをすると身長が伸びなくなる」
ジュニアスポーツの現場では、今でもこうした話を耳にします。
しかし、現在のスポーツ医学では、考え方は大きく変わっています。
適切な方法と指導のもとで行う筋力トレーニングを、 「小学生・中学生だから」という理由だけで避ける科学的根拠はありません。
むしろ重要なのは、
技術を磨く前に、
その技術を支えられる身体ができているか?
という視点です。
「もっと上手くなってほしい」だから技術練習が増えていく
スポーツをしている子どもを見れば、 保護者が「もっと上手くなってほしい」と思うのは当然です。
- もっとシュートを入れたい
- もっと速く動きたい
- 当たり負けしないようにしたい
- ジャンプ力を上げたい
- もっと速いボールを投げたい
- もっと遠くへ飛ばしたい
- もっと速く走りたい
すると当然、シュート、ドリブル、投球、バッティングなど、 「技術練習」が増えていきます。
コーチも選手や保護者の期待に応えようと、 さらに技術を高める指導を行います。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
ただ、その前に一つ確認してほしいことがあります。
その動きをするための
「筋力」「バランス」「身体のコントロール能力」は
本当に足りていますか?
技術は「フィジカル」という土台の上にある
例えば、バスケットボールのジャンプシュート。
一見すると「シュート技術」の問題に見えますが、 実際には多くの身体能力が必要です。
つまり、
フィジカル → 技術 → パフォーマンス
という順番があります。
土台が弱い状態で、技術練習だけを増やしても、 思うようにパフォーマンスが上がらないことがあります。
それどころか、身体が処理できない負荷を繰り返すことで、 膝、足首、腰、肩などに負担が集中することもあります。
今の子どもたちは「遊びの中で身体をつくる機会」が減っている
以前は、公園や空き地で遊ぶこと自体が、 ある意味フィジカルトレーニングになっていました。
こうした多様な動きを、日常生活の中で自然に経験していました。
しかし現在は、生活環境が大きく変化しています。
スポーツ庁の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」では、 子どもの運動時間やスクリーンタイムなどについて継続的に調査されており、 一部の体力指標では長期的な低下傾向も報告されています。
「スポーツを週に何回もしている」
=
「基礎的な身体能力が十分に身についている」
とは限らないということです。
週5回スポーツをしていても、フィジカルが弱いことはある
競技練習をたくさんしていても、 身体能力がバランスよく育っているとは限りません。
例えば、こんなケースがあります。
- 片脚で身体を安定して支えられない
- スクワットで膝が大きく内側に入る
- ジャンプはできるが、着地で身体が崩れる
- 速く走れるが、急停止できない
- 疲れるとフォームが一気に崩れる
この状態で競技練習だけを増やしたらどうなるでしょうか。
身体は「理想的な動き」ではなく、 今できる方法で何とか動作を成立させようとします。
何度フォームを直しても変わらない。その原因は「身体」かもしれない
コーチから、
「もっと腰を落として!」
「体幹を安定させて!」
「もっと強く踏み込んで!」
と何度言われても、なかなか直らない選手がいます。
そのとき、
「本人が理解していない」
「意識が足りない」
「もっと反復練習が必要」
と考えてしまいがちです。
しかし、違う可能性もあります。
そのフォームを実現するための
筋力・バランス・関節機能・身体をコントロールする能力そのものが
不足しているのかもしれません。
できない動きを、ただ何百回も繰り返す。
それが本当に、その子にとって最善でしょうか。
「小学生・中学生に筋トレはまだ早い」は本当?
ここで多くの保護者が心配するのが、 筋力トレーニングです。
| よく聞くイメージ | 現在の考え方 |
|---|---|
| 小学生に筋トレは早い | 年齢だけで禁止する根拠はない |
| 筋トレをすると身長が伸びない | 適切なトレーニングが成長を妨げる根拠は示されていない |
| 筋トレ=重たいバーベル | 自重運動やゴム、軽い外部負荷も含まれる |
米国小児科学会も「適切な筋力トレーニング」を支持
米国小児科学会(AAP)は、 「Resistance Training for Children and Adolescents」というClinical Reportを発表しています。
その中では、適切に設計され、監督されたレジスタンストレーニングについて、 身長の伸びや成長板の健康に悪影響を与えることは示されていない としています。
さらに、期待される効果として、
- 筋力の向上
- 身体能力の向上
- 運動技能の向上
- スポーツ傷害リスク低減への貢献
などが挙げられています。
そもそも「筋トレ=ムキムキになる運動」ではない
ジュニア期の筋力トレーニングは、 大人と同じように重たいバーベルを持つことが目的ではありません。
- 正しいスクワット
- ランジ
- 腕立て伏せ
- 片脚バランス
- ジャンプと着地
- ゴムバンドを使った運動
- 体幹トレーニング
- 減速・方向転換の練習
つまり大切なのは、 「何kg持てるか」ではありません。
自分の身体を
正しく「支える・動かす・止める」こと。
世界のガイドラインでは、子どもの筋肉・骨を強くする活動を推奨
WHO(世界保健機関)は5~17歳の子ども・青少年について、 筋肉と骨を強化する身体活動を週3日以上行うことを推奨しています。
さらにオーストラリア政府の身体活動ガイドラインでも、 腕立て伏せや遊具を登る活動に加えて、 年齢や能力に応じたウエイトを利用する運動などが例として示されています。
「子どもだから筋力を鍛えない」
ではなく、
「子どもだからこそ、発達段階に合わせて身体を強くする」
という考え方になっています。
実は、日本のガイドラインにも書かれています
これは海外だけの話ではありません。
厚生労働省 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 こども版」でも、 WHOの推奨をもとに、
週3日以上
という内容が紹介されています。
つまり、 「小学生・中学生だから筋力トレーニングをしてはいけない」 という考え方は、 現在の国内外のガイドラインとは一致していません。
医学やスポーツ科学の考え方は変わっている一方で、 社会のイメージがまだ追いついていない部分があるのかもしれません。
大切なのは「何歳から?」ではなく「どう行うか?」
子どもの筋力トレーニングで重要なのは、 年齢だけで判断することではありません。
- 正しいフォームで行う
- 年齢・発達段階に合った負荷にする
- いきなり重量を追わない
- 競技や身体の課題に合わせる
- 適切な知識を持つ指導者が確認する
つまり、
「小学生だからダメ」ではなく、
何を・なぜ・どのように行うのか。
ここが重要なのです。
技術練習だけを増やすと、悪循環になることも
↓
技術練習をさらに増やす
↓
身体への負担が増える
↓
膝・足首・腰・肩などが痛くなる
↓
十分に練習できない
↓
さらにパフォーマンスが低下する
この悪循環に入る前に、
「この子には何が足りないのか?」
を一度評価することが重要です。
ジュニア期こそ「評価 → トレーニング → 再評価」
成長期の身体は、数か月でも大きく変化します。
身長が伸びれば手足の長さも変わり、 重心や身体の使い方も変わります。
だからこそ、定期的に
✓ 左右差
✓ バランス能力
✓ 関節の動き
✓ スクワット
✓ 片脚支持
✓ ジャンプ・着地
✓ 走る・止まる・方向転換
などを確認し、 その子に必要なトレーニングを選択することが大切です。
まとめ|上手くなってほしいからこそ、まず身体をつくる
ジュニアアスリートに必要なのは、 「技術か、フィジカルか」ではありません。
フィジカル × 技術
=
パフォーマンス
もっとシュートを。
もっと投げ込みを。
もっと走り込みを。
と練習量を増やす前に、 一度考えてみてください。
その練習を受け止められる身体が、
本当にできていますか?
成長期だから筋力トレーニングを避けるのではなく、 成長期だからこそ、正しい知識に基づいて身体をつくる。
それが、ケガを予防しながら、 将来のパフォーマンスを高めるための重要な土台になります。
次回|フィジカルトレーニングで本当にケガは減るのか?
では実際に、 筋力、バランス、ジャンプ、着地、減速などを含む フィジカルトレーニングを行うことで、 ジュニアアスリートのケガはどのくらい減るのでしょうか。
次回は最新のシステマティックレビュー・メタ解析をもとに、
- ケガの発生率はどのくらい変わるのか
- 何をトレーニングすればよいのか
- なぜ「止まる」「着地する」能力が重要なのか
- 週何回くらい行えばよいのか
について詳しく解説します。
参考文献・ガイドライン
- Stricker PR, Faigenbaum AD, McCambridge TM. Resistance Training for Children and Adolescents. Pediatrics. 2020;145(6):e20201011. American Academy of Pediatrics.
- World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. Geneva: WHO; 2020.
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 こども版.
- Behm DG, Faigenbaum AD, Falk B, Klentrou P. Canadian Society for Exercise Physiology position paper: resistance training in children and adolescents. Appl Physiol Nutr Metab. 2008;33(3):547-561.
- Faigenbaum AD, et al. Youth Resistance Training: Updated Position Statement Paper From the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2009;23(Suppl 5):S60-S79.
- スポーツ庁. 全国体力・運動能力、運動習慣等調査.
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