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筋力低下は認知症と関係する?握力・下肢筋力・サルコペニアを最新研究から解説

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筋力低下は認知症と関係する?握力・下肢筋力・サルコペニアを最新研究から解説

筋力低下は認知症と関係する?握力・下肢筋力・サルコペニアを最新研究から解説

2026/07/31

認知症予防シリーズ 第5回

筋力低下は認知症と関係する?
握力・下肢筋力・サルコペニアを最新研究から解説

「筋力が落ちると認知症になりやすいって本当?」 最近、このような質問をいただくことが増えてきました。 実際に近年の研究では、 握力や下肢筋力の低下、 さらにはサルコペニア(加齢に伴う筋肉量・筋力の低下)と認知機能低下との関連が数多く報告されています。 しかし、 「筋力が弱い=認知症になる」 という単純な話ではありません。 この記事では、最新の研究をもとに、筋力と認知症の関係について理学療法士が分かりやすく解説します。

筋力は「動くため」だけのものではありません

筋力というと、 「重い物を持つ力」 「階段を上る力」 「転ばないための力」 というイメージを持つ方が多いかもしれません。 しかし筋肉は、 単に身体を動かすためだけの組織ではありません。

近年では、 筋肉はさまざまな生理活性物質(マイオカイン)を分泌する、 体内で最大級の「内分泌器官」としても注目されています。 運動によって分泌される物質の中には、 脳の神経細胞の働きや神経の可塑性に関わるものもあり、 筋肉と脳は互いに影響し合う「筋‐脳連関(Muscle-Brain Axis)」という考え方が広がっています。

筋力が低下すると、生活はどのように変わるのでしょうか?

筋力低下の影響は、 「立ち上がりが大変になる」 だけではありません。 日常生活では、 少しずつ活動量が減り、 外出する機会が減り、 人と会う機会も少なくなることがあります。

筋力低下
歩くことが億劫になる
外出・身体活動が減る
社会参加が減る
認知症予防で推奨される生活習慣を続けにくくなる

ここで大切なのは、 「筋力低下が直接認知症を引き起こす」 と言い切れるわけではない ということです。 現在の研究では、 筋力低下は認知症の危険因子そのものというよりも、身体活動や社会参加の減少といった複数の要素を介して認知機能と関連している可能性が示されています。

なぜ「握力」が研究でよく使われるのでしょうか?

認知症や健康寿命に関する研究では、 握力がよく測定されています。 それは、 短時間で測定でき、 再現性が高く、 全身の筋力をある程度反映する指標として利用しやすいためです。 ただし、 握力だけで全身の筋力を評価できるわけではありません。 特に歩行や階段昇降、立ち上がりなど日常生活を支えるのは、 太ももやお尻などの下肢筋力です。 理学療法士は、握力だけではなく、下肢筋力やバランス、歩行能力を含めて総合的に評価します。

理学療法士からのメッセージ

外来やリハビリの現場では、 「握力はそれほど低くないのに歩けなくなっている方」や、 「握力は弱くても活動的な生活を送っている方」 にも多く出会います。 だからこそ、 数字だけを見るのではなく、 筋力・歩行・身体活動・生活背景を総合的に評価することが重要です。 筋力は単独で考えるものではなく、 その人の生活を支える力として考える必要があります。

最新研究から分かってきた「筋力」と認知機能の関係

近年、握力や下肢筋力、サルコペニアと認知機能との関係について、 世界中で多くの研究が行われています。 その結果、 筋力が低い人やサルコペニアのある人では、 認知機能低下や認知症との関連がみられる可能性 が繰り返し報告されています。

ただし、最初に理解しておきたいのは、 筋力が弱いことが、そのまま認知症の原因になると証明されたわけではない という点です。

現在の研究から分かるのは、 筋力低下が、身体活動量、生活習慣病、炎症、栄養状態、フレイルなどと関連しながら、 認知機能の状態を反映する一つの指標になり得るということです。

この章で最も大切なこと

筋力低下と認知機能低下には「関連」があります。 しかし、 「筋力が低下したから認知症になった」とは言い切れません。 年齢、病気、身体活動、栄養、社会参加など、 複数の要因を含めて考える必要があります。


握力が弱い人ほど、認知機能低下のリスクが高い可能性

握力は、認知機能との関係が最も多く研究されている筋力指標の一つです。 2021年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、 握力が低い人ほど、将来的な認知機能低下や認知症の発症リスクが高い傾向が報告されました。

さらに別の前向き研究をまとめたメタアナリシスでも、 握力は認知機能低下、認知症、アルツハイマー病などの 将来的なリスクを示す指標になり得る とされています。

握力と認知機能の関係について報告されていること

  • 握力が低い人では、認知機能低下との関連がみられる
  • 握力が低い人では、将来の認知症発症リスクが高い傾向がある
  • 握力が維持されている人では、認知機能低下が緩やかな可能性がある
  • 握力の経年的な低下も、健康状態の変化を示す可能性がある

ただし、握力が弱いからといって、認知症になるとは限りません。 握力は、年齢、性別、体格、関節疾患、神経疾患、疼痛、栄養状態など、 多くの影響を受けます。 そのため、握力は認知症の診断検査ではなく、 全身の健康状態を把握するための一つのスクリーニング指標 として考えるのが適切です。

参考: Grip Strength and the Risk of Cognitive Decline and Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis
Handgrip Strength and Risk of Cognitive Outcomes: A Prospective Study and Meta-Analysis


握力は「全身の筋力」をどこまで表しているのでしょうか?

握力は、簡単かつ短時間で測定できるため、 大規模な疫学研究で非常に使いやすい指標です。 そのため、 「握力が全身の筋力を代表する」 と説明されることがあります。

しかし、臨床的には注意が必要です。 握力が上半身を中心とした筋力指標であるのに対し、 立ち上がり、歩行、階段昇降、転倒回避などを支えているのは、 主に下肢の筋力と筋パワーです。

握力から分かること

  • 上肢筋力の一部
  • 全身状態の目安
  • フレイルやサルコペニアのスクリーニング
  • 経年的な身体機能の変化

下肢筋力から分かること

  • 立ち上がる能力
  • 歩行を支える能力
  • 階段を上る能力
  • 転倒を回避する能力

したがって、 握力だけで身体機能全体を判断するのではなく、 下肢筋力、歩行速度、バランス、日常生活動作も含めて評価する ことが重要です。


下肢筋力と認知機能にも関連が報告されています

認知機能との関係で注目されているのは、握力だけではありません。 太ももや股関節周囲などの下肢筋力、 さらに素早く力を発揮する筋パワーも、 将来の認知機能との関連が研究されています。

英国の女性双生児を対象として約10年間追跡した研究では、 研究開始時の脚の筋パワーが高い人ほど、 その後の認知機能が良好である傾向が報告されました。 一部の双生児では、脚の筋パワーが高い人の方が、 脳画像上の指標も良好である傾向が確認されています。

ただし、この結果も、 脚を鍛えれば必ず認知症を防げることを証明したものではありません。 もともと健康的で活動量が多い人ほど、 脚の筋力と認知機能の両方が保たれていた可能性もあります。

下肢筋力が重要と考えられる理由

  • 歩行や外出を支える
  • 身体活動量を維持しやすくする
  • 転倒や骨折のリスクを抑える
  • 買い物や通院などの生活行動を支える
  • 社会参加を継続するための土台になる

下肢筋力は、認知機能へ直接作用するというよりも、 身体活動や社会参加を続けるための基礎体力として、 認知症予防で推奨される生活習慣を支えている と考えることができます。

参考: Leg Power Predicts Cognitive Ageing after Ten Years in Older Female Twins


サルコペニアとは何でしょうか?

サルコペニアとは、 加齢や病気などに伴って、筋力、筋肉量、身体機能が低下した状態 を指します。 以前は「筋肉量の減少」が重視されていましたが、 現在では、筋肉量だけでなく、 筋力や身体機能の低下を重視する 考え方が一般的になっています。

筋力低下
筋肉量の減少
歩行速度など身体機能の低下
サルコペニア

サルコペニアになると、 立ち上がり、歩行、階段昇降などが難しくなり、 転倒、骨折、要介護、入院などのリスクが高まります。 そして近年では、 身体的な問題だけでなく、 認知機能との関係も注目されています。


2025年の最新レビューで示されたサルコペニアと認知機能の関連

2025年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、 31件の研究が検討され、27件が統計解析に含まれました。 その結果、

2025年のメタアナリシス

サルコペニアのある人では、ない人と比較して、 認知機能低下と関連するオッズが 約1.88倍 でした。

また、「サルコペニアの可能性」がある段階でも、 認知機能低下と関連するオッズが 約1.96倍 と報告されました。

ここでいう「約1.88倍」「約1.96倍」は、 認知症になる確率が必ず約2倍になるという意味ではありません。 この研究で示されているのは、 サルコペニアやその可能性がある人では、 認知機能低下を持つ割合が高かった という関連です。

また、対象者の年齢や地域、 サルコペニアと認知機能の評価方法が研究ごとに異なるため、 数値をすべての人にそのまま当てはめることはできません。

研究結果を読む際の注意点

  • 関連があっても、原因と結果が確定したわけではありません
  • 認知機能低下が先に起こり、活動量や筋力が低下した可能性もあります
  • 筋力と認知機能が、共通する病気や生活習慣の影響を受けている可能性もあります
  • サルコペニアの診断基準には、研究間で違いがあります

参考: The Association of Sarcopenia, Possible Sarcopenia and Cognitive Impairment: A Systematic Review and Meta-Analysis


筋力低下と認知機能低下には、共通する背景があります

筋力低下と認知機能低下が関連する理由は、 一つだけではないと考えられています。

身体活動の低下

活動量が減ることで筋力が低下し、 脳への刺激や社会参加も減少する可能性があります。

慢性的な炎症

慢性炎症は、筋肉と脳の双方に影響する可能性が研究されています。

血管の健康

高血圧、糖尿病、動脈硬化などは、 筋力と認知機能の両方に影響する可能性があります。

栄養状態

低栄養やたんぱく質・エネルギー不足は、 筋肉量や全身の健康状態に影響します。

ホルモンの変化

加齢による代謝やホルモン環境の変化が、 筋肉と脳に共通して関係する可能性があります。

神経系の変化

脳や末梢神経の変化によって、 筋力発揮と認知機能の双方が低下する場合があります。

このように、筋力と認知機能は、 互いに独立したものではありません。 筋力が低下したために活動量が減ることもあれば、 認知機能や意欲の低下によって活動量が減り、 結果として筋力が落ちることもあります。

筋力低下
身体活動・外出の減少
社会参加・認知刺激の減少
認知機能・意欲の低下

そのため、この関係は一方向ではなく、 身体と認知機能が互いに影響し合う循環 として考える必要があります。


握力と歩行速度を組み合わせた評価が注目されています

筋力と認知機能の関係を考える際、 握力だけでは十分ではない可能性があります。 2025年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、 握力と歩行速度を組み合わせて評価することで、 認知機能低下や認知症リスクをより総合的に把握できる可能性が示されました。

なぜ組み合わせるのでしょうか?

握力は、全身の筋力や体力の目安になります。 一方、歩行速度には、 筋力、バランス、関節機能、心肺機能、注意力、判断力など、 より多くの身体・認知機能が関係します。

握力
筋力・全身状態の指標

歩行速度
身体機能・神経機能・認知機能を含む総合指標

より総合的な身体機能評価

つまり、握力だけ、歩行速度だけと単独で評価するよりも、 複数の身体機能を組み合わせることが重要 だと考えられます。

参考: Effects of Hand Strength and Walking Speed Combined on Cognitive Decline and Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis


筋肉量だけを増やせばよいわけではありません

サルコペニアという言葉から、 「筋肉量を増やせば認知症予防になる」 と考える方もいるかもしれません。 しかし、重要なのは筋肉の大きさだけではありません。

筋肉を評価するときに必要な視点

  • 筋肉量:筋肉がどのくらいあるか
  • 筋力:どのくらい力を発揮できるか
  • 筋パワー:どれだけ素早く力を出せるか
  • 身体機能:立つ、歩く、階段を上るなどに使えるか
  • 生活活動:実際に外出や社会参加へつながっているか

筋肉量があっても、力を十分に発揮できない方はいます。 反対に、筋肉量が少なくても、 日常生活を活動的に送っている方もいます。 したがって、認知症予防を考えるうえでも、 筋肉量だけでなく、筋力と身体機能、実際の生活活動まで評価する ことが重要です。

最新研究から分かること

  • 低い握力は、将来の認知機能低下や認知症と関連しています。
  • 下肢筋力や脚の筋パワーも、認知機能との関連が報告されています。
  • サルコペニアのある人では、認知機能低下との関連が強くみられます。
  • 握力と歩行速度を組み合わせた総合評価が注目されています。
  • これらの研究は主に「関連」を示しており、直接的な因果関係を証明したものではありません。
  • 筋力・歩行・身体活動・社会参加を一体として考えることが重要です。

理学療法士として考えること

握力は測定しやすく、健康状態を把握するうえで有用な指標です。 しかし、実際の生活を支えているのは、 握力だけではありません。 立ち上がる、歩く、階段を上る、外出するためには、 下肢筋力、バランス、柔軟性、心肺機能など、 複数の機能が必要です。 そのため認知症予防を考える際にも、 「握力が何kgあるか」だけではなく、 その筋力を使って、どのような生活を送れているのか まで確認する必要があります。

筋力をつければ認知症は予防できるのでしょうか?

ここまで読んで、 「筋トレをすれば認知症は予防できますか?」 と思われた方もいるかもしれません。

結論から言うと、 筋力をつけるだけで認知症を予防できるとは証明されていません。

認知症は、 年齢、 遺伝、 生活習慣病、 睡眠、 食事、 身体活動、 社会参加、 教育歴など、 さまざまな要因が複雑に関係して発症します。

そのため、 筋力だけを高めれば認知症を防げるという単純なものではありません。

筋力は「認知症予防を支える土台」

筋力が保たれる
↓ 歩きやすくなる
↓ 活動量が維持される
↓ 外出しやすくなる
↓ 人との交流が続く
↓ 認知症予防で推奨される生活習慣を続けやすくなる

つまり、 筋力そのものが認知症を予防するというよりも、 筋力は「身体活動」や「社会参加」を支える基盤 として重要であると考えられます。


理学療法士は「筋力」だけを見ているわけではありません

一般的には、 筋力というと「何kg持てるか」というイメージがあります。 しかし、 私たち理学療法士が評価しているのは、 筋力だけではありません。

評価している項目

  • 膝伸展筋力
  • 股関節周囲筋力
  • 体幹筋力
  • 握力
  • 立ち上がり能力
  • 歩行速度
  • 歩幅
  • バランス能力
  • 転倒リスク
  • 姿勢
  • 日常生活動作
  • 活動量

これらを総合的に評価することで、 「筋力が弱い」のではなく、 「何が原因で生活が制限されているのか」 を考えています。


プライズネスが下肢筋力を重視する理由

プライズネスでは、 特に膝を伸ばす筋力(膝伸展筋力)を重視しています。

膝伸展筋力は、 歩行、 立ち上がり、 階段昇降など、 日常生活を支える代表的な筋力です。

膝伸展筋力が支える動作

  • 椅子から立ち上がる
  • 歩く
  • 階段を上る
  • 転倒を防ぐ
  • 買い物へ行く
  • 趣味を続ける
  • 旅行へ行く

つまり、 筋力は単なる数字ではなく、 「生活する力」 そのものなのです。


筋力を測る本当の目的

筋力測定は、 順位をつけるためではありません。

現在の状態を知り、 将来の変化を早く見つけるためです。

筋力測定
↓ 現在地を知る
↓ 弱い部分を把握する
↓ 適切な運動を選ぶ
↓ 継続する
↓ 生活機能を維持する

体重を定期的に測るように、 筋力も定期的に確認することで、 小さな変化に気付きやすくなります。


理学療法士として22年間感じていること

急性期病院で18年間、 そして現在も毎日高齢者の身体機能を評価しています。

その中で強く感じるのは、 筋力が低下した方ほど、 「動けない」のではなく、 「動かなくなってしまう」 ことが多いということです。

外出が減る。 買い物へ行かなくなる。 趣味をやめる。 人と会わなくなる。 こうした変化は、 認知症予防で重要とされる生活習慣を続けにくくします。

もちろん、 筋力だけが原因ではありません。 しかし、 筋力を維持することは、 活動的な生活を続けるための土台になります。 だから私たちは、 筋肉そのものではなく、 「筋力を使ってどんな生活を送れているか」 を大切にしています。


筋力を維持することは、人生を楽しむ力を維持すること

筋力を維持する
歩ける・立ち上がれる
外出できる
人と会える
趣味を楽しめる
健康寿命の延伸につながる可能性

認知症予防とは、 認知症だけを防ぐことではありません。 自分らしい生活を続けること、 好きな場所へ行き、 好きな人と会い、 趣味を楽しめること。 その土台となる身体を維持することが、 認知症予防にもつながる可能性があると私は考えています。

今日から始める「筋力低下を防ぐ生活」

筋力低下を防ぐために大切なのは、 いきなり強い負荷をかけることではありません。 現在の体力や病気、関節の状態に合わせて、 安全に続けられる運動を生活の中に取り入れること が重要です。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、 高齢者に対して、筋力トレーニングを週2~3日、 筋力・バランス・柔軟性などを組み合わせた多要素な運動を 週3日以上行うことが推奨されています。

国が推奨する高齢者の身体活動

  • 歩行または同等以上の身体活動を、 可能な範囲で1日40分以上行う
  • 筋力トレーニングを週2~3日行う
  • 筋力・バランス・柔軟性を含む多要素運動を週3日以上行う
  • 座りっぱなしの時間を長くしすぎない
  • 推奨量に届かなくても、今より少しでも多く身体を動かす

参考: 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」


まず取り組みたい5つの運動

筋力低下を防ぐためには、 太ももだけを鍛えるのではなく、 立つ、歩く、姿勢を保つために必要な筋肉を バランスよく使うことが大切です。

① 椅子からの立ち上がり

椅子から立ち上がる運動は、 太ももの前側やお尻の筋肉を使う、 日常生活に直結した筋力トレーニングです。

方法

  1. 安定した椅子に浅めに座ります
  2. 両足を肩幅程度に開きます
  3. 上体を少し前に傾けます
  4. 足の裏で床を押すように立ち上がります
  5. ゆっくりと椅子へ座ります

目安: まずは5~10回から始めます。
反動を使わず、座るときもゆっくり行いましょう。

② かかと上げ

ふくらはぎの筋肉は、 歩行時に身体を前へ進める力や、 姿勢を保つ働きに関係します。

方法

  1. 椅子や手すりにつかまって立ちます
  2. 両足のかかとをゆっくり上げます
  3. 一度止まり、ゆっくり下ろします

目安: 10回程度から始めます。
身体が前後に揺れない範囲で行ってください。

③ 横への脚上げ

脚を横へ上げる運動では、 骨盤を支える中臀筋などを使います。 これらの筋肉は、 歩行時のふらつきを抑えるために重要です。

方法

  1. 椅子や手すりにつかまって立ちます
  2. 身体を傾けずに、片脚を横へゆっくり上げます
  3. つま先を正面へ向けたまま戻します
  4. 反対側も同様に行います

目安: 左右5~10回程度から始めます。

④ その場足踏み

その場足踏みは、 股関節周囲の筋肉、バランス、持久力を 同時に使う運動です。

方法

  1. 安定した場所で椅子や手すりにつかまります
  2. 左右の脚を交互にゆっくり上げます
  3. 背すじを伸ばし、呼吸を止めずに続けます

目安: 20~30秒程度から始めます。

⑤ 日常生活の中で歩く

筋力トレーニングをしていても、 それ以外の時間をほとんど座って過ごしていれば、 身体活動量は十分に増えません。

買い物、散歩、掃除、料理、庭仕事、階段昇降なども、 筋力と身体機能を維持する大切な身体活動です。

運動の時間だけでなく、生活全体で動く機会を増やす ことが大切です。


筋力トレーニングは、どのくらいの強さで行えばよいのでしょうか?

筋力トレーニングは、 楽すぎても十分な刺激になりにくく、 強すぎれば痛みや転倒、体調悪化につながる可能性があります。

一つの目安

運動の最後に、 「少し大変だったが、正しい姿勢で続けられた」 と感じる程度から始めます。

  • 姿勢が大きく崩れない
  • 反動を使わずに行える
  • 呼吸を止めずに行える
  • 運動後に強い痛みが残らない
  • 翌日に日常生活へ支障が出ない

最初から回数や負荷を増やす必要はありません。 慣れてきたら、 回数、セット数、負荷、動作の難しさのうち、 一つずつ段階的に調整します。

安全にできる運動から開始
正しい姿勢を身につける
回数や負荷を少しずつ増やす
生活で使える筋力へつなげる

筋トレだけでなく、有酸素運動やバランス運動も組み合わせる

認知症予防や健康寿命の延伸を考える場合、 筋力トレーニングだけに偏らないことも重要です。

筋力トレーニング

立ち上がりや歩行を支える筋力を維持します。

有酸素運動

歩行や自転車などにより、 心肺機能と全身の循環を支えます。

バランス運動

ふらつきや転倒を防ぎ、 安全な外出を支えます。

柔軟性運動

関節の動きを保ち、 歩行や日常動作を行いやすくします。

身体機能は、 一つの要素だけで成り立っているわけではありません。 筋力、持久力、バランス、柔軟性を組み合わせることで、 より実際の生活に結びつく運動になります。


筋肉を維持するためには、食事も重要です

筋肉は、運動だけでつくられるわけではありません。 筋肉の材料となるたんぱく質に加え、 十分なエネルギー、ビタミン、ミネラルなどを 食事から摂取することも必要です。

特に注意したい変化

  • 食事量が以前より減った
  • 体重が意図せず減っている
  • 肉や魚、卵、乳製品、豆類をあまり食べていない
  • 食欲がない
  • 噛むことや飲み込むことが難しい
  • 一人暮らしで食事内容が偏っている

ただし、 腎臓病、心臓病、糖尿病などで食事療法を受けている方は、 自己判断でたんぱく質やサプリメントを増やさず、 医師や管理栄養士へ相談してください。


このような場合は、自己流で運動を始めないでください

  • 胸痛、息苦しさ、強い動悸がある
  • 安静にしていても強い痛みがある
  • 急に歩けなくなった
  • 片側の手足に力が入りにくい
  • めまいや意識が遠のく感じがある
  • 最近、転倒を繰り返している
  • 関節の腫れや熱感が強い
  • 医師から運動制限を受けている

高血圧、心疾患、呼吸器疾患、関節疾患、 神経疾患などがある方は、 現在の状態に合った運動量を 医師や理学療法士などの専門職に確認することをおすすめします。


よくある質問

Q1.握力が弱いと認知症になるのでしょうか?

握力が弱い人では、 認知機能低下や認知症との関連がみられることが 複数の研究で報告されています。 しかし、 握力が弱いことだけで認知症になるとは判断できません。 年齢、病気、栄養状態、活動量、下肢筋力、歩行能力などを 総合的に考える必要があります。

Q2.筋トレをすれば認知症を予防できますか?

筋力トレーニングによって、 筋力や身体機能に加え、 一部の認知機能が改善する可能性は報告されています。 ただし、 筋トレだけで認知症を予防できると 証明されているわけではありません。 食事、睡眠、生活習慣病の管理、身体活動、社会参加などを 組み合わせることが重要です。

Q3.ウォーキングだけでは足りませんか?

ウォーキングは、 身体活動量や心肺機能を維持するために有効な運動です。 一方で、 歩くだけでは十分な筋力刺激が得られにくい方もいます。 特に立ち上がりや階段昇降が難しくなっている場合は、 下肢筋力トレーニングやバランス運動を 組み合わせることが大切です。

Q4.何歳から筋力トレーニングを始めても遅くありませんか?

年齢だけを理由に、 筋力トレーニングを諦める必要はありません。 高齢になってからでも、 適切な負荷で運動を行うことで、 筋力や身体機能の改善が期待できます。 ただし、 体力や病気の状態には個人差があるため、 安全に行える方法を選ぶ必要があります。

Q5.筋肉量が多ければ安心ですか?

筋肉量だけでは、 実際の身体機能を十分に判断できません。 筋肉量があっても、 筋力を発揮できない、 歩行が不安定、 外出していないという場合があります。 筋肉量に加えて、 筋力、歩行速度、立ち上がり、バランス、 実際の生活活動まで確認することが重要です。

Q6.どの筋肉を優先して鍛えるべきですか?

一般的には、 太ももの前側、お尻、ふくらはぎ、体幹など、 立つ・歩くために必要な筋肉が重要です。 ただし、 本当に弱い筋肉や動作の問題は人によって異なります。 膝が痛い方にスクワットを繰り返すなど、 自己流の運動が症状を悪化させる場合もあるため、 痛みや身体機能低下がある方は 専門的な評価を受けることをおすすめします。


この記事のまとめ

  • 握力、下肢筋力、サルコペニアと 認知機能低下には関連が報告されています。
  • ただし、筋力低下が認知症を直接引き起こすと 証明されているわけではありません。
  • 握力だけでなく、下肢筋力、歩行速度、バランス、 身体活動を総合的に評価することが重要です。
  • 筋力は、身体活動や社会参加を続けるための土台です。
  • 高齢者には筋力トレーニングを週2~3日、 多要素運動を週3日以上行うことが推奨されています。
  • 運動は体力や病気の状態に合わせ、 安全に継続することが重要です。

理学療法士から最後にお伝えしたいこと

認知症予防というと、 脳トレや記憶力の訓練を思い浮かべる方が多いかもしれません。 しかし、 人と会うこと、 買い物へ行くこと、 趣味を続けること、 地域の活動に参加することも、 認知症予防で大切とされる生活習慣です。

その生活を支えているのが、 歩く力、立ち上がる力、バランスを保つ力です。

身体機能維持は身体活動・社会参加を支える土台であり、 認知症予防で推奨される生活習慣の継続につながる可能性があります。

筋力を維持する目的は、 筋肉を大きくすることだけではありません。 これから先も、 自分の足で外出し、 人と会い、 自分らしい生活を続けること。 そのために、 現在の筋力と身体機能を知ることから始めてみてください。

筋力や歩行能力が気になる方へ

リハビリジム プライズネスでは、 理学療法士が一人ひとりの身体機能を評価し、 筋力、関節可動域、バランス、姿勢、歩行などを 総合的に確認しています。

単に筋力トレーニングを行うのではなく、 「なぜ歩きにくいのか」 「なぜ立ち上がりにくいのか」 「何が外出を妨げているのか」 を評価したうえで、 その方に必要な運動をご提案します。

最近歩く速度が遅くなった、 椅子から立ち上がりにくくなった、 外出する機会が減ってきたという方は、 身体機能を一度確認してみることをおすすめします。

認知症予防シリーズ 完結

認知症予防は、脳だけを考えるものではありません

本シリーズでは、 認知症予防を脳だけの問題として捉えるのではなく、 運動、食事、社会参加、歩行、筋力という 複数の視点から解説してきました。

一つの方法ですべてを防げるわけではありません。 しかし、 生活習慣を一つずつ見直し、 身体と社会とのつながりを保つことは、 将来の認知機能と生活機能を守るための 大切な取り組みになります。

参考文献・公的資料

  1. Grip Strength and the Risk of Cognitive Decline and Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis.
  2. Handgrip Strength and Risk of Cognitive Outcomes: A Prospective Study and Meta-Analysis.
  3. Leg Power Predicts Cognitive Ageing after Ten Years in Older Female Twins.
  4. The Association of Sarcopenia, Possible Sarcopenia and Cognitive Impairment: A Systematic Review and Meta-Analysis.
  5. Effects of Hand Strength and Walking Speed Combined on Cognitive Decline and Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis.
  6. A Systematic Review and Meta-Analysis of the Effects of Resistance Training on Cognitive Function in Older Adults.
  7. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
  8. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 高齢者版」
  9. World Health Organization. Dementia.

※本記事は、認知症やサルコペニアの診断・治療を目的としたものではありません。 体調や身体機能に不安がある場合は、医師や理学療法士などの専門職へご相談ください。

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