膝の注射・薬・サプリメントは運動の代わりになる?|変形性膝関節症の治療選択|札幌 琴似
2026/07/24
変形性膝関節症 全5回シリーズ・第3回 | 理学療法士が文献ベースで解説
膝が痛いとき、「注射で早く楽になりたい」「サプリメントで軟骨を守りたい」と考えるのは自然なことです。痛みを我慢し続ける必要はありません。ただし、痛みを一時的に下げることと、筋力・歩行・活動量を回復させることは別の治療です。注射、薬、サプリメントを否定するのではなく、それぞれを何のために使い、運動へどうつなげるかを整理します。
監修:リハビリジム プライズネス(理学療法士) / 最終更新日:2026年7月24日 / 読了:約14分
薬や注射には、症状や持病に応じた適切な使い方があります。本記事は治療を一律に否定するものではありません。開始・変更・中止は、主治医や薬剤師へ相談してください。急激な腫れ、赤み、熱感、発熱、外傷後に体重をかけられない場合は、運動より医療機関の受診が優先です。
痛みを減らすことは大切です。ただし、治療のゴールではありません
膝が痛ければ、歩くことも、筋力トレーニングも難しくなります。そのため、薬や注射で痛みを和らげることには意味があります。治療を受けることは「運動から逃げること」ではありません。
しかし、痛みが軽くなったあとも動かなければ、大腿四頭筋や殿筋は弱ったままです。歩行速度、階段能力、持久力、外出習慣も自然には戻りません。
これが、変形性膝関節症の治療を長期的に考えるうえで重要です。
薬が必要なときも、運動と一緒に使う
英国NICEは、変形性関節症に薬物療法が必要な場合も、運動などの非薬物療法と併用し、最小限の有効量を、できるだけ短期間使用するよう推奨しています。[1]
塗り薬のNSAIDs
NICEは、膝の変形性関節症で薬が必要な場合、まず外用の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を勧めています。AAOSも、禁忌がなければ機能と生活の質を改善する選択肢として強く推奨しています。[1][2]
飲み薬より全身への影響が少ないことが期待されますが、皮膚炎が起こることがあり、腎臓病、心疾患、心不全などがある方では外用薬でも確認が必要です。
飲み薬のNSAIDs
内服NSAIDsは痛みと機能を改善しますが、胃腸障害、腎機能、肝機能、血圧、心血管リスクなどを考慮する必要があります。年齢、服薬、持病によって安全性が変わるため、「市販薬だから安全」とは限りません。[1][2]
アセトアミノフェン
アセトアミノフェンについてはガイドライン間で評価が異なります。NICEは強い有効性の根拠がないとして、他の薬が使えない場合の短期・時々の使用に限定しています。一方、AAOSは禁忌がなければ痛みと機能を改善する選択肢としています。肝機能や他の配合薬との重複に注意が必要です。[1][2]
オピオイド系鎮痛薬
強い鎮痛薬は、長期的な変形性膝関節症の中心治療にはなりません。依存、眠気、転倒、便秘などの問題があり、主要ガイドラインでは慎重または否定的な推奨です。特別な事情がある場合を除き、運動や他の治療を優先します。[1][2]
・痛みが減ったことで、歩行や運動が増えたか
・服用前後で、階段や立ち上がりが楽になったか
・胃、腎臓、血圧、むくみ、眠気などの問題がないか
・効いていない薬を惰性で続けていないか
・同じ成分を市販薬と処方薬で重複していないか
ステロイド注射は、短期間の痛みを和らげる選択肢
関節内ステロイド注射は、滑膜炎や強い痛みがあるときに、比較的早く症状を和らげることがあります。NICEは、他の薬が効かない・使えない場合、または運動療法を行いやすくする目的で検討できるとしています。ただし、効果は2〜10週間程度の短期的なものと説明しています。[1]
関節の動きを整え、筋力トレーニングを始め、歩行量を段階的に戻すことで、注射の効果を生活機能の改善へつなげます。
理学療法と注射を比較した研究
2020年のランダム化比較試験では、変形性膝関節症患者156人を理学療法群とステロイド注射群へ分けました。1年後、理学療法群は、痛み・こわばり・身体機能を総合したWOMACスコアで注射群より良好でした。[3]
この研究は「注射は無意味」と示したものではありません。注射は短期的に症状を変える一方、理学療法では関節可動域、筋力、動作、セルフマネジメントなどへ複数の介入を行います。長期的な生活機能を考えると、身体そのものへ働きかける必要があることを示した研究です。
繰り返すステロイド注射には慎重さが必要
2017年の試験では、3か月ごとに2年間ステロイド注射を受けた群は、生理食塩水群より軟骨量の減少が大きく、膝痛には有意差がありませんでした。[4]
ただし、この結果をすべての注射回数・薬剤・患者へそのまま当てはめることはできません。炎症が強い時期に一時的に使用することと、長期間にわたり定期的な注射だけを続けることは区別して考える必要があります。
糖尿病の方では一時的に血糖が上がることがあり、感染症、抗凝固薬、手術予定などによっても注意点が変わります。注射の間隔や必要性は主治医と確認してください。
ヒアルロン酸注射は、なぜ意見が分かれるのか
日本ではヒアルロン酸注射が広く行われており、「自分には効いている」と感じる方もいます。一方、国際的なガイドラインでは評価が分かれています。
AAOS 症候性の変形性膝関節症で、日常的な使用は推奨しない
ACR/関節炎財団 膝では条件付きで推奨しない。ただし、他の治療が十分でない場合、限られた根拠を理解した共同意思決定の余地はある
評価が分かれる理由には、製剤、分子量、注射回数、対象者、比較方法が研究ごとに異なること、注射自体の文脈効果が大きいことなどがあります。平均的な効果が小さくても、一部の方が症状改善を感じる可能性まで否定するものではありません。[1][2][5]
PRP・再生医療は「軟骨を元に戻す治療」とはまだ言えない
PRPは、自分の血液から血小板を多く含む成分を取り出して注射する治療です。「再生医療」「軟骨を再生する」と説明される場合がありますが、現時点では、変形性膝関節症の軟骨を確実に元へ戻し、病気の進行を止める治療として確立しているわけではありません。
AAOSは、PRPが痛みや機能を改善する可能性を示しつつも、根拠の強さを「限定的」としています。ACR/関節炎財団は、製剤や作製方法が標準化されていないことを問題として、推奨していません。[2][5]
2021年のRESTORE試験では、軽度から中等度の変形性膝関節症患者288人にPRPまたは生理食塩水を3回注射しました。12か月後、痛みと内側脛骨軟骨量について、PRPの有意な優位性は確認されませんでした。[6]
一方、ほかの研究や解析で改善が報告されることもあり、結論は完全には一致していません。PRPを検討する場合は、費用、製剤方法、期待できる効果、運動療法を十分行ったかを確認することが重要です。
注射を受ける場合も、「何か月で、どの動作が、どの程度変われば成功と判断するか」を事前に決めておくと、治療を冷静に評価できます。
グルコサミン・コンドロイチンは、運動の代わりにはならない
グルコサミンやコンドロイチンは、「軟骨の材料」として販売されています。しかし、口から摂取した成分が、そのまま膝の軟骨になり、変形を修復するわけではありません。
1,583人が参加したGAIT試験では、グルコサミン、コンドロイチン、両者の併用は、参加者全体ではプラセボより有効な疼痛軽減を示しませんでした。[7]
NICEはグルコサミンを勧めておらず、ACR/関節炎財団も、膝の変形性関節症にグルコサミン、コンドロイチン、両者の併用を推奨していません。根拠が比較的信頼できる研究では、重要な効果が確認されていないためです。[1][5]
コラーゲン、MSM、ウコン・クルクミン、ビタミンD、魚油なども研究されていますが、製品や研究方法が一定でなく、変形性膝関節症の中心治療として運動を置き換える根拠はありません。ビタミンDなどは、欠乏がある場合に補うことと、膝関節症の治療目的で飲むことを分けて考える必要があります。
1.何を改善したくて飲むのか
2.その効果を何週間・何か月で評価するのか
3.月々の費用に見合う変化があるか
4.その費用と時間を、運動指導や食事改善へ使った場合と比較したか
抗凝固薬を使用している方、糖尿病、腎臓病、肝疾患、アレルギーがある方では、サプリメントにも相互作用や安全性の問題があります。利用する場合は、商品名を医師・薬剤師へ伝えてください。
「効いたかどうか」は、生活の変化で判断する
注射や薬を受けた直後に痛みが下がると、「治った」と感じることがあります。しかし、変形性膝関節症は慢性的な状態であり、治療効果は生活機能を含めて評価する必要があります。
・朝や動き始めの痛み
・5回立ち上がりの時間
・膝を伸ばす筋力
・普段の歩行速度
・休まず歩ける距離
・階段の上り下り
・買い物や外出の回数
・運動後、翌日の腫れと痛み
痛みが10から5へ下がっても、外出回数が増えず、筋力が低下し続けていれば、治療の次の段階が必要です。反対に、痛みが完全にゼロでなくても、歩行距離が伸び、旅行や買い物へ行けるようになれば、大きな改善です。
注射を受けた後の1〜2か月を、どう使うか
注射で症状が和らいだ期間を、単に「楽に過ごす期間」にするのではなく、身体を立て直す期間として使います。
- ① 膝の可動域を整える 膝が伸びきらない状態や、曲がりにくさを確認します。
- ② 大腿四頭筋・殿筋を鍛える 膝だけでなく、股関節と体幹を含めて負担を分散します。
- ③ 左右均等に体重をかける 痛い脚を避ける癖が残ると、歩き方は改善しません。
- ④ 歩行量を段階的に戻す 一度に増やさず、翌日の反応を見ながら距離や時間を増やします。
- ⑤ 生活の目標へつなげる 買い物、旅行、趣味など、本人が戻りたい活動を練習します。
それだけで終わらず、痛みが和らいだ機会を使って筋力・歩行・活動量を回復させることが、長く歩くために必要です。
こんな場合は、治療内容を一度整理してみてください
- ✓注射を繰り返しているが、歩ける距離が短くなっている
- ✓薬で痛みは軽いが、階段や立ち上がりは改善していない
- ✓サプリメントを長く飲んでいるが、効果を評価していない
- ✓注射後に楽になるが、数週間で元へ戻ることを繰り返している
- ✓PRPなど高額な治療を受けるべきか迷っている
- ✓自分に必要な運動が分からず、動くのが怖い
相談するときに伝えるとよいこと
・注射後、何日で効き、何週間続いたか
・現在飲んでいる薬、市販薬、サプリメント
・糖尿病、腎臓病、心疾患、胃潰瘍などの持病
・痛みで諦めている生活や趣味
・治療後にできるようになりたい動作
「注射を受けるべきか」「薬を減らせるか」だけでなく、「その治療を使って、どの生活を取り戻すか」を相談すると、治療の目的が明確になります。
リハビリジム プライズネスでできること
プライズネスでは、注射や薬を受けるかどうかを決める医療機関ではありません。しかし、現在の痛み、膝の可動域、筋力、歩行、足圧、立ち上がり、活動量を評価し、治療後に何を改善すべきかを具体的に整理できます。
- 治療前後の変化を数値化 膝伸展筋力、立ち上がり、歩行速度などで、実際に身体機能が変わったか確認します。
- 痛みに合わせた運動を提案 注射後、痛みがある時期、手術を検討している時期など、状態に合わせて負荷を調整します。
- 医療機関へ相談する材料を整理 痛みの経過、腫れ、効果期間、生活上の困りごとを整理し、必要に応じて受診を勧めます。
参考文献
1. National Institute for Health and Care Excellence. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management. NG226. 2022. NICE recommendations
2. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Osteoarthritis of the Knee (Non-Arthroplasty), 3rd ed. 2021. AAOS guideline
3. Deyle GD, et al. Physical Therapy versus Glucocorticoid Injection for Osteoarthritis of the Knee. N Engl J Med. 2020;382:1420-1429. DOI: 10.1056/NEJMoa1905877
4. McAlindon TE, et al. Effect of Intra-articular Triamcinolone vs Saline on Knee Cartilage Volume and Pain in Patients With Knee Osteoarthritis. JAMA. 2017;317:1967-1975. DOI: 10.1001/jama.2017.5283
5. Kolasinski SL, et al. 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis Care Res. 2020;72:149-162. DOI: 10.1002/acr.24131
6. Bennell KL, et al. Effect of Intra-articular Platelet-Rich Plasma vs Placebo Injection on Pain and Medial Tibial Cartilage Volume in Patients With Knee Osteoarthritis: The RESTORE Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021;326:2021-2030. DOI: 10.1001/jama.2021.19415
7. Clegg DO, et al. Glucosamine, Chondroitin Sulfate, and the Two in Combination for Painful Knee Osteoarthritis. N Engl J Med. 2006;354:795-808. DOI: 10.1056/NEJMoa052771
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