「筋トレは筋肉だけでなく“脳”にも効く?高齢女性120名の研究でわかった認知機能への効果」
2026/06/26
筋トレは筋肉だけでなく
「脳」と「こころ」にも効果的?
高齢女性120名を対象にした研究でわかった、認知機能・抑うつ・不安への効果
「筋トレは、足腰を強くするためのもの」と思われる方は多いかもしれません。
もちろん、筋力トレーニングは転倒予防や歩行能力の維持にとても大切です。 しかし近年の研究では、筋トレが認知機能、気分の落ち込み、不安感にも良い影響を与える可能性が示されています。
今回のポイント
高齢女性を対象にした研究では、12週間・週3回の筋力トレーニングによって、認知機能だけでなく、抑うつ症状や不安症状にも良い変化がみられました。
どんな研究だったのか?
この研究では、60歳以上の高齢女性120名を対象に、12週間の筋力トレーニングが認知機能やメンタルヘルスに与える影響を調べました。
参加者は、次の3つのグループに分けられました。
- 8〜12回反復できる重さで筋トレを行うグループ
- 10〜15回反復できる重さで筋トレを行うグループ
- 運動を行わないグループ
筋トレは週3回、12週間行われました。内容は、胸・背中・脚・腕・ふくらはぎなどを含む全身8種目で、各種目3セット実施されています。
結果① 認知機能が改善した
認知機能の評価には、MoCAという検査が使われました。MoCAは、記憶力、注意力、言語機能、実行機能、視空間認知などを確認する検査です。
MoCAスコアの変化
- 8〜12回反復グループ:約2.9%改善
- 10〜15回反復グループ:約5.2%改善
- 運動を行わなかったグループ:明らかな改善なし
この結果から、12週間の筋力トレーニングは、高齢女性の認知機能の維持・改善に役立つ可能性があると考えられます。
結果② 言葉を思い出す力も改善した
研究では、「言語流暢性」と呼ばれる能力も評価されています。これは、決められた時間内にどれだけ多くの言葉を思い出せるかをみる検査です。
たとえば、「動物の名前をできるだけ多く言ってください」というような課題です。この能力は、単なる記憶力だけでなく、注意力、処理速度、言葉を探し出す力とも関係します。
言葉を思い出す力の変化
```意味性の言語流暢性
8〜12回反復:約9.7%改善 / 10〜15回反復:約9.0%改善
音韻性の言語流暢性
8〜12回反復:約12.3%改善 / 10〜15回反復:約12.1%改善
筋トレによって、身体だけでなく、脳の働きにも良い刺激が入っている可能性が示されています。
結果③ 段取りや切り替え能力にも良い影響
研究では、Trail Making Testという検査も行われました。これは、数字や文字を順番につないでいく検査で、注意力、処理速度、認知の切り替え能力などを評価します。
特にTMT-Bという検査は、単純な作業ではなく、頭の中でルールを切り替えながら進める必要があります。 日常生活でいうと、段取りを考える、状況に合わせて行動を変える、複数のことを同時に考えるといった能力に関係します。
筋トレは「足腰」だけの問題ではありません。
日常生活に必要な判断力や切り替え能力にも良い影響を与える可能性があります。
結果④ 抑うつ症状が改善した
今回の研究では、認知機能だけでなく、メンタルヘルスについても評価されています。抑うつ症状の評価には、PHQ-9とGDS-15という質問票が使われました。
抑うつ症状の変化
- PHQ-9:8〜12回反復グループで 約34.2%改善
- PHQ-9:10〜15回反復グループで 約24.4%改善
- GDS-15:8〜12回反復グループで 約21.7%改善
- GDS-15:10〜15回反復グループで 約17.4%改善
高齢になると、外出機会の減少、身体機能の低下、人との交流の減少などによって、気分の落ち込みが起こりやすくなります。
そのような中で、筋トレが抑うつ症状の軽減に役立つ可能性があるという点は、とても重要です。
結果⑤ 不安症状も改善した
不安症状を評価するBAIという検査でも、筋トレ群に良い変化がみられました。
不安症状の変化
- 8〜12回反復グループ:約41.6%改善
- 10〜15回反復グループ:約41.5%改善
不安が強くなると、外出を控える、転倒が怖くて動かなくなる、人との関わりが減るなど、生活範囲が狭くなりやすくなります。
その結果、筋力低下や体力低下がさらに進み、悪循環に入ってしまうことがあります。
8〜12回と10〜15回、どちらが良いのか?
今回の研究では、8〜12回反復できる重さで行う筋トレと、10〜15回反復できる重さで行う筋トレが比較されました。
結果としては、どちらの方法でも認知機能やメンタルヘルスに良い効果がみられました。
大切なのは「重すぎる負荷」ではなく、継続できる適切な負荷です。
高齢者の場合、無理に重い負荷を扱うよりも、関節の状態や体力に合わせて、安全に継続することが重要です。
なぜ筋トレが脳やこころに良いのか?
筋トレが認知機能やメンタルヘルスに影響する理由は、まだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの可能性が考えられています。
- 筋肉量や筋力が改善し、日常生活で動きやすくなる
- 外出機会や人との交流が増えやすくなる
- 血流や代謝、自律神経に良い影響が出る
- 炎症やストレス反応が改善する可能性がある
- 筋肉から分泌されるマイオカインが脳や全身に影響する可能性がある
つまり筋トレは、筋肉だけで完結するものではありません。脳、こころ、血管、代謝など、全身に関わる刺激と考えることができます。
高齢者にとって筋トレは「転ばないため」だけではない
高齢者の運動というと、転倒予防や筋力低下予防がよく話題になります。もちろん、それはとても大切です。
しかし今回の研究からは、筋トレが認知機能、抑うつ、不安にも良い影響を与える可能性が示されました。
筋トレに期待される効果
- 歩く力を守る
- 立ち上がりや階段動作を維持する
- 転倒を予防する
- 認知機能を維持する
- 気分の落ち込みや不安を軽減する
- 自分らしい生活を続ける
どんな運動から始めればよい?
いきなり本格的なトレーニングを始める必要はありません。高齢者の場合は、まず安全にできる運動から始めることが大切です。
- 椅子からの立ち上がり
- かかと上げ
- 軽いスクワット
- ゴムバンドを使った運動
- 軽い重りを使った腕や脚の運動
- バランストレーニング
膝や腰に痛みがある方、心臓や血圧に不安がある方、転倒リスクが高い方は、自己流で無理に行わず、専門家に身体の状態を確認してもらいながら進めることをおすすめします。
まとめ
今回の研究では、60歳以上の高齢女性に対して、12週間・週3回の筋力トレーニングを行うことで、認知機能、言語機能、実行機能、抑うつ症状、不安症状に良い変化がみられました。
特に重要なのは、8〜12回反復できる負荷でも、10〜15回反復できる負荷でも、どちらでも効果がみられたことです。
高齢者にとって筋トレは、筋肉をつけるためだけの運動ではありません。歩く力を守り、転倒を予防し、気持ちを前向きに保ち、認知機能を維持するためにも大切な健康習慣です。
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Cunha PM, Ribeiro AS, Cavalcante EF, et al. Impact of resistance training repetition ranges on cognitive function and mental health in older women: A randomized controlled clinical trial. Journal of Affective Disorders. 2026;398:120938.
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