身体のフレイルは改善できる|筋力・歩行・活動量を取り戻す最新研究|札幌 琴似
2026/07/17
老化とフレイル 全5回シリーズ・第2回 | 理学療法士が文献ベースで解説
「筋肉が落ちたから歩けなくなった」と考えがちですが、実際には筋肉量だけでは説明できません。高齢者の身体的フレイルには、筋力、動く速さ、神経の指令、心肺機能、栄養、痛み、活動習慣が関わります。そして研究では、これらを適切に組み合わせて働きかけることで、身体機能や生活範囲を改善できることが示されています。
監修:リハビリジム プライズネス(理学療法士) / 最終更新日:2026年7月17日 / 読了:約13分
数日から数週間で急に歩けなくなった、片側だけ力が入らない、胸痛・強い息切れ・失神・発熱・急なむくみがある場合は、運動より医療評価が優先です。脳卒中、感染症、心不全、貧血、薬剤などでも身体機能は低下します。本記事は一般的な情報であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。
身体的フレイルは「筋肉が少ない状態」ではない
身体的フレイルは、少しの病気や入院、暑さ、転倒などをきっかけに、身体機能が大きく崩れやすくなった状態です。代表的なFriedのフレイル基準では、次の5項目から評価します。[1]
② 疲労感・消耗感
③ 握力などの筋力低下
④ 歩行速度の低下
⑤ 身体活動量の低下
ここで注目したいのは、筋肉量そのものが基準に入っていないことです。身体的フレイルは、筋肉の大きさではなく、身体がエネルギーを作り、力を出し、実際の生活で使い続けられるかを表す概念です。
サルコペニアは、筋力低下を中心に、筋肉量・筋質や身体機能を評価する概念です。身体的フレイルとサルコペニアは重なりますが、同じではありません。心臓や肺の病気、低栄養、抑うつ、関節痛などによっても、筋肉量がそれほど減っていない段階からフレイルは進みます。
筋肉があっても動けない理由
脚を動かすには、脳からの指令が脊髄と末梢神経を通り、神経筋接合部を介して筋線維へ伝わる必要があります。加齢では、筋線維だけでなく運動神経や運動単位の数・働きも変化します。
そのため、筋肉量が保たれていても、必要な筋線維を瞬時に動員できなければ、立ち上がり、階段、つまずいたときの踏み直しなどが遅れます。特に生活で重要なのは、最大筋力だけではなく、短時間に力を発揮する筋パワーです。
・筋肉量と筋線維の大きさ
・筋肉内への脂肪蓄積などの筋質
・運動神経と神経筋接合部の機能
・瞬時に力を出す筋パワー
・ミトコンドリアによるエネルギー産生
・心臓・肺・血管の持久力
・関節可動域、痛み、感覚、バランス
・転倒への恐怖や活動する習慣
つまり、身体的フレイルは「筋肉という部品」の問題だけでなく、脳から筋肉への指令、エネルギー供給、循環、動作学習を含むシステム全体の問題です。
身体的フレイルが進む「負の循環」
↓
外出や歩数が減る
↓
筋力・筋パワー・心肺機能が低下する
↓
同じ動作でも疲れやすくなる
↓
椅子やベッドで過ごす時間が増える
↓
食欲・睡眠・意欲も低下する
↓
さらに動けなくなる
この循環で怖いのは、「動けないから休む」という自然な行動が、長く続くと回復を遅らせることです。もちろん病気の急性期には安静が必要ですが、必要以上の不活動は身体の予備力を急速に奪います。
わずか10日の安静でも、身体は大きく変わる
健康な高齢者11人、平均67歳を10日間ベッド上安静にした研究では、膝を伸ばす筋力が13.2%低下し、階段を上るパワーは14%低下、最大酸素摂取量は12%低下しました。安静終了後も自発的な活動量が下がり、座位・不活動時間が増えました。[2]
高齢者では、入院、猛暑、風邪、痛みなどで活動量が落ちた数日から数週間が、身体的フレイルを進める重要な期間になります。
一方で、この研究ではSPPBなどの簡単な身体機能検査は10日後に有意な変化を示しませんでした。これは、検査で明らかな低下が出る前に、筋力や心肺予備力が先に落ちている可能性を示します。
「まだ歩けているから大丈夫」ではなく、以前より立ち上がりに力が必要、階段で息切れする、外出後に翌日まで疲れる、といった小さな変化を早く捉えることが重要です。
研究では、身体的フレイルはどこまで改善するのか
2024年に報告された28件のランダム化比較試験、計4,857人のメタ解析では、筋力、有酸素、バランス、柔軟性などを組み合わせた多要素運動により、フレイル状態が改善しました。さらに、筋力、歩行速度、バランス、SPPB、TUGのすべてで有意な改善が認められました。[3]
この解析では、12週間程度のプログラムが特に効果的でした。ただし、研究ごとに対象者、運動内容、指導方法が異なり、「全員に同じ12週間が最適」と断定するものではありません。
・フレイル評価
・下肢・握力などの筋力
・歩行速度
・立位バランス
・SPPB(立位・歩行・立ち上がりの総合評価)
・TUG(立ち上がり、歩行、方向転換)
つまり、運動によって筋肉が少し増えるだけではなく、実際に立つ、歩く、方向を変える能力まで改善する可能性があります。
「歩けなくなること」を防いだ大規模試験
身体機能検査の点数だけでなく、生活上の重大な障害を防げるかを調べた代表的な研究がSPRINTT試験です。
この試験では、身体的フレイルとサルコペニアを有する高齢者1,519人、平均78.9歳を対象に、運動、栄養評価、身体活動支援などを組み合わせた介入を実施しました。主要な評価は、休まず、座らず、他人の介助なしで400mを15分以内に歩けなくなる「移動障害」です。[4]
開始時のSPPBが3〜7点だった、より身体機能の低い1,205人では、平均約26か月の追跡で移動障害が起きた割合は、介入群46.8%、対照群52.7%でした。ハザード比は0.78で、発生リスクが相対的に22%低い結果でした。
しかし、すでにフレイルとサルコペニアがある約79歳の方でも、長期的な複合介入により「400mを歩けなくなる」という重大な生活障害を減らせる可能性が示されました。
何をすればよいのか:歩くだけでも、筋トレだけでも足りない
2025年の国際コンセンサスでは、高齢者の運動は、筋力、有酸素、バランス、柔軟性を含む多要素プログラムを、健康状態と機能に合わせて個別化することが推奨されています。[5]
椅子から立つ、階段を上る、荷物を持つための土台を作ります。楽に何十回もできるだけでは負荷が不足することがあります。安全を確認しながら徐々に負荷を上げます。
立ち上がるときや脚を伸ばすときに、「押す動きはできる範囲で素早く、戻す動きは丁寧に」行います。転倒回避や階段には、ゆっくりした最大筋力だけでなく力を素早く出す能力が必要です。
歩行、自転車などで心臓・肺・筋肉が酸素を利用する力を保ちます。長時間が難しい方は、短時間を分けて積み上げます。
方向転換、段差、狭い場所、障害物、片脚への荷重など、実際に転倒しやすい状況を安全な環境で練習します。
週2回運動しても、それ以外をほぼ座って過ごせば、活動量は十分ではありません。家事、買い物、階段、こまめな立ち上がりを含め、日常の座位時間を減らします。
運動は強いほどよいのか
「高齢者だから軽く」「筋肉をつけるなら限界まで」と両極端に考えるのは適切ではありません。
2025年の16試験、2,716人をまとめた用量反応メタ解析では、低〜中等度の運動でフレイルが改善し、週300 MET分程度でも有意な効果がみられました。一方、この解析では高強度運動のフレイル改善効果は明確ではありませんでした。[6]
ただし、この結果は「重い負荷を使ってはいけない」という意味ではありません。国際コンセンサスでは、筋力を改善するために十分な抵抗負荷が必要とされます。重要なのは、心疾患、関節痛、認知機能、転倒リスク、運動経験に合わせて、本人が安全に継続でき、少しずつ進歩する負荷を選ぶことです。
回数、重さ、動く速さ、距離、支持面、休憩時間などのどれかを、状態に合わせて徐々に変えることが必要です。
たんぱく質を飲めば歩けるようになるのか
高齢者では、食事やたんぱく質に対する筋タンパク合成反応が若い人より弱くなる「同化抵抗性」が起こります。さらに、食欲低下、歯や飲み込みの問題、一人暮らし、病気による制限などから、総エネルギーとたんぱく質が不足しやすくなります。
2024年のサルコペニア高齢者を対象とした8研究、854人のメタ解析では、たんぱく質補充とレジスタンス運動を組み合わせることで、筋肉量と筋力は改善しました。[7]
しかし、5回立ち上がりや歩行速度では、明確な改善が確認されませんでした。つまり、筋肉量が増えたことと、歩けるようになったことは同じではないのです。
たんぱく質・総エネルギーを確保したうえで、立ち上がり、歩行、階段、バランスなどの練習を行う必要があります。
健康な高齢者では、一般に体重1kgあたり1.0〜1.2g程度のたんぱく質が提案されることがありますが、必要量は病気、腎機能、活動量、栄養状態によって変わります。腎臓病、心不全、糖尿病などがある方は、自己判断でサプリメントや高たんぱく食を増やさず、主治医や管理栄養士へ相談してください。
「体重を減らす」ことが危険になる場合
血圧や糖尿病、膝痛のために減量が必要な方もいます。しかし、高齢者が自己流で食事量だけを減らすと、脂肪だけでなく筋肉も失う可能性があります。
特に、すでに体重減少、握力低下、歩行速度低下がある方では、体重計の数字を減らすことより、筋肉と体力を守りながら代謝状態を改善することが優先されます。減量する場合も、抵抗運動と十分な栄養を組み合わせる必要があります。
身体的フレイルを見逃さない測定
見た目や年齢だけでは、身体の予備力は分かりません。定期的に同じ条件で測定し、以前の自分と比較することが重要です。
握力、膝伸展筋力、足関節・股関節の筋力など。体重に対する相対値も確認します。
5回立ち上がり、30秒立ち上がり。脚力だけでなく、動作速度、バランス、疲労も反映します。
通常・最大歩行速度、歩幅、左右差、方向転換、6分間歩行などを確認します。
SPPBやTUGで、立位、歩行、立ち上がり、方向転換をまとめて評価します。
歩数、座っている時間、外出回数、買い物や家事の頻度、運動後の疲労回復を確認します。
体組成計で筋肉量が「標準」と表示されても、立ち上がりや歩行が遅ければ、身体機能上の問題が残っています。逆に筋肉量が少なめでも、筋力・バランス・心肺機能を高めることで生活能力が改善する場合があります。
身体的フレイルを改善する5つの手順
- ① 動けない原因を確認する 痛み、息切れ、貧血、薬剤、視力、睡眠、低栄養などを確認し、必要なら医療へつなぎます。
- ② 現在の能力を測る 筋力、歩行、立ち上がり、バランス、持久力を数値化し、安全な開始点を決めます。
- ③ 多要素運動を個別化する 筋力、筋パワー、有酸素、バランスを、本人の状態に合わせて組み合わせます。
- ④ 栄養と体重を守る 食事量とたんぱく質を確認し、意図しない体重減少を防ぎます。
- ⑤ 生活の中で使う 運動で得た力を、買い物、階段、旅行、家事など実際の目標へつなげます。
身体的フレイルのセルフチェック
- ✓半年以内に、意図せず2〜3kg以上体重が減った
- ✓椅子から立つとき、手を使うことが増えた
- ✓横断歩道や駅構内で、周囲の速度についていけない
- ✓外出後の疲れが翌日まで残るようになった
- ✓一日中座っている時間が増えた
- ✓つまずき、ふらつき、転倒への不安で外出を控えている
そして買い物、旅行、趣味、家族との外出を続けられる。身体的フレイルの改善とは、身体の予備力を生活へ戻すことです。
次回は、意欲低下、感情の平坦化、楽しめなさなどの「心のフレイル」を取り上げます。運動や人との関わりによって、行動、脳ネットワーク、神経伝達、炎症反応はどこまで変わるのかを解説します。
リハビリジム プライズネスでできること
プライズネスでは、筋肉量だけでなく、筋力、立ち上がり、歩行、姿勢、足圧、バランス、日常の活動状況を確認します。そのうえで、病気や痛み、本人の目標に合わせて運動を組み立てます。
- 身体機能を数値で確認 AI歩行解析、膝伸展筋力、立ち上がり、足圧などから弱点を確認します。
- 理学療法士が負荷を調整 軽すぎず、無理をしすぎない、その方に必要な負荷を設定します。
- 生活へつながる練習 階段、屋外歩行、買い物、旅行など、続けたい生活に必要な能力を練習します。
参考文献
1. Fried LP, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146-M156. DOI: 10.1093/gerona/56.3.M146
2. Kortebein P, et al. Functional impact of 10 days of bed rest in healthy older adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2008;63(10):1076-1081. DOI: 10.1093/gerona/63.10.1076
3. Yang X, et al. Effects of multicomponent exercise on frailty status and physical function in frail older adults: A meta-analysis and systematic review. Exp Gerontol. 2024;197:112604. DOI: 10.1016/j.exger.2024.112604
4. Bernabei R, et al. Multicomponent intervention to prevent mobility disability in frail older adults: randomised controlled trial (SPRINTT project). BMJ. 2022;377:e068788. DOI: 10.1136/bmj-2021-068788
5. Izquierdo M, et al. Global consensus on optimal exercise recommendations for enhancing healthy longevity in older adults (ICFSR). J Nutr Health Aging. 2025;29(1):100401. DOI: 10.1016/j.jnha.2024.100401
6. Zang W, et al. Exercise prescription prescriptions for frailty improvement in older adults: An evidence-based approach based on the 2024 older adult compendium. Arch Gerontol Geriatr. 2025;130:105717. DOI: 10.1016/j.archger.2024.105717
7. Whaikid P, et al. The effectiveness of protein supplementation combined with resistance exercise programs among community-dwelling older adults with sarcopenia: a systematic review and meta-analysis. Epidemiol Health. 2024;46:e2024030. DOI: 10.4178/epih.e2024030
8. Sánchez-Sánchez JL, et al. Effects of a 12-week Vivifrail exercise program on intrinsic capacity among frail cognitively impaired community-dwelling older people. Age Ageing. 2022. PMID: 36580558
9. Money A, et al. Evidence on non-pharmacological interventions for preventing or reversing physical frailty in community-dwelling older adults aged over 50 years: overview of systematic reviews. BMC Geriatr. 2025;25:183. DOI: 10.1186/s12877-025-05768-1
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