運動は身体だけでなく記憶にもよい?12週間で記憶課題の反応が速くなった研究を理学療法士が解説|札幌
2026/10/27
運動と脳の健康を、研究から考える
解説:成田 悟志(理学療法士)
リハビリジム プライズネス・札幌市西区琴似
運動というと、どのような効果を思い浮かべますか?
「筋力がつく」「体力がつく」「体重管理に役立つ」。 身体にとっての変化を思い浮かべる方が多いかもしれません。
では、運動を続けることで、記憶に関わる脳の働きにも 良い変化が起こるとしたら、どうでしょうか。
2026年に発表された研究では、 12週間の運動を行った若年成人に、 体重や体力の変化とともに、 記憶を使う課題への反応時間が短くなるという結果がみられました。
運動の可能性は、筋肉や体力づくりだけではありません。 身体を動かすことが、情報を覚えながら考える力にも 良い影響を与える可能性があります。
今回は研究の数字を見ながら、 運動と記憶の関係をわかりやすく解説します。
1.運動を続けると、記憶を使う力にも変化が?
今回紹介するのは、 2026年9月にFrontiers in Nutritionに掲載された研究です。 [1]
研究者は、過体重・肥満のある若年成人を対象に、 12週間の運動によって、身体や記憶課題の成績に どのような変化がみられるかを調べました。
参加者は無作為に2つのグループに分けられました。
| グループ | 内容 |
|---|---|
| 運動群:48人 | 12週間の高強度インターバルトレーニングを実施。 |
| 比較群:72人 | 普段の生活を続け、追加の計画的な運動は行わなかった。 |
運動前と12週間後に、体重、体力の指標、 そして記憶を使う課題の成績を測定しています。
2.研究で調べた「ワーキングメモリ」とは?
今回の研究で注目されたのは、 ワーキングメモリ(作業記憶)という働きです。
ワーキングメモリとは、 情報を一時的に頭の中に置きながら、 考えたり、判断したりするための働きです。
- 聞いた電話番号を覚えながら、数字を入力する。
- 買うものを思い浮かべながら、店内を回る。
- 話の内容を覚えながら、自分の考えを整理する。
- 次に行う作業を考えながら、今の作業を進める。
この研究では、画面に表示される文字を見て、 「今の文字が、1つ前または2つ前と同じか」を 判断する課題が使われました。
つまり、直前の情報を覚えておき、 新しい情報と照らし合わせて答えるテストです。
昔覚えた人の名前を思い出す課題ではなく、 直前の情報を頭に置きながら、その場で判断する課題です。 反応時間には、ボタンを押す動作も含まれます。
3.どのような運動を続けたの?
研究で行われたのは、 高強度インターバルトレーニング(HIIT)です。
HIITとは、強度の高い運動と、 休息や強度を下げる時間を組み合わせる運動方法です。
| 項目 | 研究での内容 |
|---|---|
| 実施期間 | 12週間 |
| 頻度 | 週3回。連続しない日に実施 |
| 1回の時間 | 60分。準備運動・整理運動を含む |
| 運動内容 | 身体を使った運動、走行、ゲーム形式の活動など |
| 進め方 | 動作や身体の状態を確認しながら、段階的に負荷を調整 |
運動の初期には、足踏みやステップなど、 衝撃を抑えた動きも取り入れられていました。 参加者の動作や運動への耐えられる程度を確認しながら、 段階的に進められています。
このプログラムは若年成人を対象に、監督下で行われました。 膝・腰の痛み、心臓や呼吸器の病気、運動制限がある方は、 現在の身体に合った方法を選ぶことが大切です。
4.12週間後、記憶課題への反応が速くなった
研究では、2種類の記憶課題の反応時間を平均して比較したところ、 運動群の方が、比較群より大きく短縮しました。
出典:文献[1]。2種類の課題を平均した調整後の分析値。 msはミリ秒で、1,000ミリ秒が1秒です。
約257ミリ秒は、およそ0.26秒です。 一瞬の違いに見えるかもしれませんが、 研究では、情報を覚えながら判断し、 反応するまでの時間に良い変化がみられました。
身体のトレーニングを続けたグループで、 記憶を使う課題への反応時間にも変化がみられたことは、 運動の可能性を考えるうえで興味深い結果です。
比較群でも反応時間は短くなっていました。 同じテストを繰り返すことによる慣れなども考えられるため、 研究では両グループの変化が比較されています。
回答の「正確さ」はどうだった?
課題では、答える速さだけでなく、 正しく答えられた割合も確認しています。
開始時の成績などを調整して比較したところ、 12週間後の回答の正確さには、明確な群間差が確認されませんでした。
今回は、「間違いが少なくなった」というより、 記憶を使って判断し、答えるまでの時間が短くなったことが 主な結果です。
5.身体にも、体重や体力の変化がみられた
今回の研究では、記憶課題だけでなく、 体重、BMI、最大酸素摂取量なども測定しています。
運動群では、12週間後に体重やBMIが低下し、 最大酸素摂取量は高くなる結果が報告されました。
運動中に身体が取り込んで利用できる酸素の量を示す指標で、 心肺持久力を考えるときに使われます。
参考として、運動群の体重の平均値は、 約82.67kgから約74.15kgへ変化していました。
研究参加者の調整前の平均値です。 個人差があり、誰でも同じ変化が得られるという意味ではありません。 また、食事内容や普段の活動量は十分に記録されていませんでした。
今回の結果で興味深いのは、 身体の変化と、記憶を使う課題の反応時間の変化が、 同じ研究の中で確認されていることです。
運動を、体重だけのため、筋肉だけのためと考えるのではなく、 身体全体と日常生活を支える習慣として考えるきっかけになります。
6.運動と脳の関係を、どう考えればよい?
運動と脳の関係については、今回の論文だけでなく、 これまでにもさまざまな研究が行われています。
運動が認知機能や記憶に良い影響を与える可能性を示した 研究のまとめもあり、 身体を動かす習慣は、脳の健康を考えるうえでも 注目されているのです。 [2]
一方、対象者や運動方法、測定方法によって結果には違いがあります。 研究を補正すると、効果が小さくなるという分析もあります。 [3]
「運動すれば誰でも記憶力が必ず上がる」と考えるのではなく、 体力や身体の状態に合った運動を続けながら、 自分の生活にどのような変化があるかを確認していきましょう。
体力が上がったから、記憶課題も速くなったの?
研究では、運動群の中で、 最大酸素摂取量の改善と、一部の記憶課題の反応時間の変化に 関連がみられました。
ただし、この分析から、 「体力が上がったことが原因で、反応が速くなった」と 結論づけることはできません。
脳画像や血液中の関連物質も測定されていないため、 身体の中でどのような仕組みが働いたかは、 今後さらに調べる必要があります。
7.身体にも脳にも。まずは自分に合う運動を
運動の目的は、体重を減らすことだけではありません。
- 疲れにくい身体をつくりたい。
- 仕事や家事を、元気に続けたい。
- 歩く力を保ち、外出を楽しみたい。
- 将来の健康に向けて、運動習慣をつけたい。
どんな目標であっても、 自分の身体に合った運動を見つけて、継続することが 大切です。
「運動が身体にも、脳にもよいかもしれない」と知ることは、 新しい一歩を踏み出すきっかけになります。
現在の体力、関節の状態、生活習慣、目標を確認し、 実行しやすい内容から始めましょう。
痛みや疲れ方を見ながら、 少しずつ運動を続けられる形に整えていくことが大切です。
8.プライズネスが大切にする「身体を知って、運動を選ぶ」こと
リハビリジム プライズネスでは、 「運動をしましょう」とお伝えするだけでなく、 今の身体を知り、目標に合わせて運動を選ぶことを 大切にしています。
① 身体の状態や、生活で困っていることを確認する。
② 「何ができるようになりたいか」を目標にする。
③ 筋力・体力・痛みなどに合わせて運動を選ぶ。
④ 一定期間後に、身体と生活の変化を振り返る。
たとえば、「最近疲れやすくなった」 「運動を始めたいけれど、膝や腰が心配」という場合には、 身体の状態を確認したうえで、続けやすい運動を一緒に考えます。
体重や筋力の数値だけでなく、 「外出しやすくなった」「疲れにくくなった」など、 生活の中で感じる変化も大切にしていきます。
9.まとめ|運動は身体にも、記憶にも可能性がある
今回の研究では、過体重・肥満のある若年成人が 12週間の運動を続けた結果、 体重や体力の変化とともに、 記憶課題への反応時間にも良い変化がみられました。
運動は筋肉や体力を支えるだけでなく、 情報を覚えながら考える脳の働きにも 良い影響を与える可能性があります。
この研究の対象は若年成人であり、 すべての年代や運動方法に同じ結果が当てはまるかは 今後の研究が必要です。
自分に合った運動を見つけ、 身体と生活の変化を楽しみながら続けてみませんか?
よくある質問
運動すると記憶力は良くなりますか?
運動が記憶や認知機能に良い影響を与える可能性を示した研究があります。 今回の研究では、若年成人の記憶課題への反応時間が短縮しました。 ただし、効果は対象者や運動方法、測定する能力によって異なります。
ワーキングメモリとは何ですか?
情報を一時的に頭の中に置きながら、 考えたり判断したりするための働きです。 今回は、直前に見た文字を覚えて判断する課題が使われました。
12週間の運動で、誰でも記憶力が上がりますか?
誰でも同じ効果が得られるとは言えません。 今回の対象は過体重・肥満のある若年成人であり、 回答の正確さには明確な群間差も確認されていません。
強い運動をしなければ、脳には効果がありませんか?
この研究では、強い運動をしない比較群と比べていますが、 ウォーキングなど別の運動方法とは直接比較していません。 そのため、強い運動だけが有効とは言えません。
高齢者にも同じ結果が当てはまりますか?
今回の研究対象は18〜25歳の大学生です。 高齢者に同じ結果が得られるかは、この研究だけではわかりません。 運動は体力や持病、生活の目標に合わせて選びましょう。
運動で認知症を予防できますか?
今回紹介した研究は、若年成人の記憶課題を調べたもので、 認知症の発症や予防を直接調べたものではありません。 この論文だけから、認知症の予防効果を判断することはできません。
身体にも、これからの毎日にも。自分に合う運動を始めませんか?
札幌市西区琴似のリハビリジム プライズネスでは、 理学療法士が筋力測定やAI姿勢・歩行解析などを活用し、 身体の状態と生活の目標に合わせた個別運動指導を行っています。
「運動習慣をつけたい」「疲れにくい身体をつくりたい」 「膝や腰の状態に合わせて運動したい」など、 今の悩みや目標をお聞かせください。
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何歳になっても、自分の足腰で好きなことを。
参考文献
-
Zhu LN, Yuan W, Gu QZ, Yang QL, Yi CJ, Wang Z.
Impact of a 12-week high-intensity interval training program
on working memory in young adults with overweight or obesity.
Frontiers in Nutrition. 2026;13:1869229.
doi:10.3389/fnut.2026.1869229.
論文全文を確認する -
Singh B, et al.
Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function:
a systematic umbrella review and meta-meta-analysis.
British Journal of Sports Medicine. 2025;59:866–876.
doi:10.1136/bjsports-2024-108589.
運動と認知機能に関する研究のまとめ -
Ciria LF, et al.
An umbrella review of randomized control trials
on the effects of physical exercise on cognition.
Nature Human Behaviour. 2023.
運動と認知機能に関する別の研究のまとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としています。 研究結果は、すべての方に同じ効果が得られることを保証するものではありません。 持病や運動制限がある場合は、主治医の指示を確認したうえで運動を行いましょう。
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