心のフレイルは改善できる|意欲・感情・脳の可塑性を最新研究から解説|札幌 琴似
2026/07/18
老化とフレイル 全5回シリーズ・第3回 | 理学療法士が文献ベースで解説
以前は旅行や友人との食事を楽しみにしていたのに、最近は誘っても「面倒だからいい」と断る。身体は動けそうなのに、自分から何かを始めなくなった——。こうした変化を、単に「歳を取って気力がなくなった」と考えてよいのでしょうか。現在の研究では、意欲や感情は性格だけでなく、脳の行動・報酬回路、身体の疲労や痛み、睡眠、血管、炎症、そして生活の中で得られる意味や人とのつながりから生まれると考えられています。
監修:リハビリジム プライズネス(理学療法士) / 最終更新日:2026年7月18日 / 読了:約14分
意欲低下、表情の変化、落ち込みの背景には、うつ病、認知症、パーキンソン病、脳卒中、甲状腺疾患、貧血、感染症、薬剤、痛み、睡眠障害、聴力低下などが隠れていることがあります。急に変化した、生活が大きく崩れた、死にたいという発言がある場合は、運動や励ましだけで対応せず医療機関へご相談ください。
そもそも「心のフレイル」とは何か
「心のフレイル」「心理的フレイル」という言葉は使われるようになりましたが、身体的フレイルのように世界共通の定義や判定基準が確立しているわけではありません。
2024年のスコーピングレビューでは、心理的要素を含む16種類のフレイル評価尺度が検討されました。その結果、認知機能、抑うつ、感情的孤独、不安、対処能力、自殺念慮など、含まれる項目が尺度ごとに大きく異なっていました。研究者は、認知機能の脆弱性と、気分・感情・対処能力の脆弱性を一緒にせず、「認知的フレイル」と「感情的フレイル」を分けて考える必要があると提案しています。[1]
何が弱っているのかを分解しなければ、改善方法も選べません。
同じ「動かない」でも、原因はまったく違う
強い悲しみは訴えないものの、自発的な行動、考え、感情反応が減ります。「誘われれば行くが、自分からは予定を立てない」という形もあります。
以前好きだった食事、音楽、会話、趣味から喜びを感じにくくなります。行動を始めても「やっても楽しくない」と感じます。
気分の落ち込み、絶望、自責感、睡眠・食欲の変化、疲労感などが起こります。高齢者では「悲しい」より、身体の不調、物忘れ、動作の遅さとして現れることがあります。
やりたい気持ちはあっても、何を準備し、どの順番で行うかを組み立てられません。外出そのものより、服を選ぶ、時間を計算する、交通手段を決めることが負担になります。
心の問題に見えても、実際には息切れ、疼痛、転倒への不安、尿失禁、難聴などが行動を止めている場合があります。
外から見ると、どれも「やる気がない」ように見えます。しかし、原因が異なれば必要な支援も異なります。アパシーに長い説得をしても始められないことがあります。痛みや難聴が原因の方に心理論だけを伝えても改善しません。
感情が穏やかになることと、感情が失われることは違う
健康な加齢では、若い頃より刺激に振り回されにくくなり、自分にとって意味のある人や活動を選ぶようになることがあります。怒りや不安を避け、日常の小さな満足を大切にすることは、必ずしも心の衰えではありません。
好きだったことに反応しない、将来の予定を考えない、身の回りのことをしなくなった、会話や表情が急に減った場合は、正常な加齢とは分けて考えます。
意欲や喜びは、脳のどこから生まれるのか
意欲は、脳の一か所にある「やる気中枢」が作るものではありません。少なくとも、次の働きが連携して初めて行動になります。
② 報酬を予測する 行ったあとに楽しさや達成感が得られそうか
③ 労力と危険を見積もる 疲労、痛み、失敗、転倒の危険に見合うか
④ 計画する 何をどの順番で行うか
⑤ 行動を開始し、継続する 実際に身体を動かし、結果を学習する
これらには前頭前野、前部帯状回、線条体、扁桃体、海馬などのネットワークが関係します。ドーパミンは報酬予測や行動開始に重要ですが、セロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、ストレスホルモンなども関わります。
神経細胞、受容体、脳血流、睡眠、炎症、過去の経験、現在の環境が組み合わさり、「行動する価値が低い」「労力が大きすぎる」と脳が判断しやすくなると考える方が正確です。
身体が弱ると、心も動きにくくなる
高齢者の意欲低下を考えるとき、脳内物質だけを見るのは不十分です。痛み、息切れ、筋力低下、睡眠不足、便秘、聴力・視力低下などは、行動に必要な「コスト」を高くします。
しかし、膝が痛い、転びそう、声が聞き取れない状態になると、外出は「疲れる、怖い、恥ずかしい」という経験に変わります。
その結果、脳が外出を避ける判断をするのは、本人の怠けではなく合理的な適応でもあります。
ただし、回避が続くと、成功体験、社会的な報酬、日光、身体活動が減り、睡眠や食欲も乱れます。すると、さらに行動しにくくなる悪循環が生まれます。
心のフレイルは、本当に改善するのか
心理的フレイル全体を一つの基準で測った大規模介入試験はまだ不足しています。しかし、構成要素であるアパシー、抑うつ、認知、生活機能については、改善を示す研究があります。
運動でアパシーは変わる
2025年のメタ解析では、9件のランダム化比較試験、計356人を統合した結果、身体運動によってアパシーが有意に改善しました。効果量は標準化平均差−0.32で、小さいものの統計学的に明確な効果でした。[2]
ただし、対象には認知症やパーキンソン病などを持つ人が含まれ、運動内容や評価尺度もさまざまでした。9試験・356人はまだ小規模で、最適な種類・頻度・持続期間や、終了後も効果が続くかは分かっていません。
抑うつ症状にも運動は有効
2024年のネットワークメタ解析では、うつ症状のある高齢者を対象とした47試験、2,895人が検討されました。歩行、有酸素運動、ヨガ、気功、筋力トレーニング、太極拳などの多くが、対照群より抑うつ症状を軽減しました。[3]
歩行は少ない運動量から効果が示されましたが、研究の質は低〜中等度で、研究間のばらつきも大きいものでした。「歩けばうつ病が治る」とは言えず、うつ病では医療的な評価や心理療法、薬物療法が必要な場合があります。
身体の不快感を減らす、眠れるようになる、できたと感じる、人と会う、次の予定が生まれる——複数の経路が同時に動きます。
「やる気が出てから動く」では遅いことがある
うつや意欲低下では、「元気になったら外出しよう」と考えます。しかし、行動しない期間が続くほど、楽しさや達成感を得る機会が減り、気分が改善する材料も失われます。
行動活性化は、気持ちを無理に前向きに変えようとするのではなく、本人の価値に合う小さな行動を予定し、実行できる環境を整え、行動の結果を学び直す心理療法です。
65歳以上で抑うつ症状のある161人を対象としたクラスターランダム化試験では、看護師による8週間の個別行動活性化が通常治療より抑うつ症状を改善しました。治療直後の群間効果量は0.90と大きく、3か月後にも差が残りましたが、6〜12か月では明確な差がなくなりました。[4]
同じ試験の二次解析では、治療直後の生活機能上の制限も通常治療より早く改善しました。ただし、12か月後には有意差がなく、改善は認知機能が比較的保たれた人で明確でした。[5]
・行動を先に作ることで、気分と生活機能は改善し得る
・一度改善しても、支援や行動が途切れると効果が薄れる可能性がある
・認知機能が低下している人には、予定表、家族支援、環境調整などをより具体的に組み込む必要がある
心理的な介入で、脳そのものも変わるのか
人の脳細胞やシナプスを生きたまま直接調べ続けることはできません。そのため、人ではMRI、PET、血液、症状・行動の変化から、脳の可塑性を間接的に調べます。
2022年の小規模ランダム化試験では、晩年期うつ病の患者60人を、通常の抗うつ薬治療に8週間のマインドフルネス認知療法を追加する群と、通常治療のみの群に分けました。追加群では抑うつ症状がより改善し、感情調節に関わる右中前頭回と扁桃体の機能的結合、両者を結ぶ白質の指標が変化しました。脳結合の変化は症状改善とも関連していました。[6]
ただし、参加者は60人と少なく、薬物治療も併用され、健康教育などの積極的な対照群もありません。心理療法によって「脳が若返った」と証明した研究ではなく、反復した心理的訓練に脳ネットワークが応答する可能性を示した研究です。
脳内物質・炎症・細胞レベルでは、どこまで分かっているか
運動や心理療法には、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、内因性オピオイド、エンドカンナビノイドなどが関わると考えられます。ただし、通常の血液検査で脳内の量を評価し、改善を一物質で説明することはできません。
学習や運動では、シナプスの効率、脳血流、ネットワーク結合、BDNFなど神経栄養因子が変化する可能性があります。ヒトではMRIや血液による間接的証拠が中心です。
睡眠や安心できる関係、心理療法、運動によって、自律神経やコルチゾールの調節が変わる可能性があります。しかし個人差が大きく、単一の「心の若返り検査」はありません。
慢性疾患、肥満、睡眠障害、孤独、身体活動不足などは、炎症性サイトカインや免疫調節と関連します。症状改善に炎症の変化が伴う研究はありますが、原因と結果の方向や、誰に重要かは確定していません。
起きられる、身支度ができる、会話が増える、外出する、楽しめる、次の予定を立てる——これらは脳・身体・環境の変化が統合された結果です。
2025年の大規模試験が示した「仕組み」の重要性
2025年のUS POINTER試験では、認知機能低下リスクのある60〜79歳の2,111人を2年間追跡しました。両群とも、運動、MIND食、認知課題、社会参加、心血管リスク管理を勧められましたが、一方は定期的なチーム会議、運動指導、仲間、記録、目標管理を伴う構造化プログラムでした。[7]
全般的認知機能は両群で改善しましたが、構造化群の改善が統計学的にわずかに大きい結果でした。年間の複合スコア変化は0.243対0.213標準偏差で、群間差は大きくありません。また、介入なしの群がないため、認知症を予防したとまでは言えません。
改善するとき、何がどの順番で変わるのか
起床、着替え、運動参加、会話、食事、外出などが少し増える。本人の気分はまだ大きく変わらないことがあります。
第2段階:自己効力感と予測
「できない」から「少しならできる」へ変わる。失敗や疲労の予測が修正されます。
第3段階:報酬と感情
人に会えた、体が楽だった、役に立てたという経験から、楽しさや次への期待が戻ります。
第4段階:生活の再構成
外出、役割、人間関係、睡眠、活動量が安定し、悪循環が良い循環へ変わります。
実際にはこの順番どおりとは限りません。しかし、「笑顔になったか」だけで改善を判断せず、行動、疲労、睡眠、会話、役割を複数の方向から確認する必要があります。
心のフレイルを改善する7つの具体策
- ① 原因を分ける 悲しいのか、始められないのか、楽しめないのか、段取りが難しいのか、痛みや疲労で避けているのかを確認します。
- ② 本人にとって意味のある目標を決める 「運動する」ではなく、「孫の試合を見に行く」「自分で買い物へ行く」など、何のためかを明確にします。
- ③ 行動を小さくする 散歩30分ではなく、着替える、玄関を出る、5分歩くなど、成功できる大きさに分けます。
- ④ 気分ではなく予定で動く やる気を待つのではなく、曜日、時間、同行者を決め、開始の判断を減らします。
- ⑤ 成功を本人と確認する 距離や回数だけでなく、「始められた」「疲れが残らなかった」「人と話せた」を言語化します。
- ⑥ 身体と環境の障壁を減らす 痛み、睡眠、聴力、視力、移動手段、服薬、段差などを整えます。
- ⑦ 継続する仕組みを作る 予約、記録、家族への報告、定期評価など、行動が途切れても戻れる仕組みを用意します。
変化を確認するセルフチェック
- ✓自分から予定を立てることが減った
- ✓以前好きだったことをしても楽しめない
- ✓誘われればできるが、一人では始められない
- ✓失敗や疲労を心配し、外出を避けている
- ✓睡眠、食欲、体重、会話量が変わった
医療機関への相談を優先したいサイン
- 急に表情、会話、自発性が減った 脳卒中、感染症、薬剤なども考えます。
- 2週間以上、落ち込みや楽しめなさが続く 高齢期うつ病は正常な老化ではありません。
- 死にたい、消えたいという発言がある 早急な専門的評価が必要です。
- 幻視、強い物忘れ、動作の遅さ、転倒を伴う 神経変性疾患なども含めて評価します。
その反復によって、行動、報酬、感情調節の回路が再び働き、生活そのものが変わっていきます。
次回は、外出、会話、役割、人とのつながりが減る「社会的フレイル」を取り上げます。孤独や社会的孤立が、活動量だけでなく、脳・免疫・代謝とどのように関係するのかを解説します。
リハビリジム プライズネスでできること
プライズネスでは、筋力や歩行だけを見るのではなく、本人が何を続けたいのか、外出や役割が減っていないか、何が行動を止めているのかまで確認します。
- 動けない理由を整理 筋力、痛み、疲労、転倒不安、生活状況を確認します。
- 成功できる運動から開始 小さな成功を数値と本人の感覚の両方で確認します。
- 運動を生活へつなげる 買い物、趣味、家族との外出など、本人にとって意味のある目標を設定します。
参考文献
1. Lameirinhas J, et al. Definition and assessment of psychological frailty in older adults: A scoping review. Ageing Res Rev. 2024;100:102442. DOI: 10.1016/j.arr.2024.102442
2. Jia H, et al. The effect of physical exercise on apathy in older adults: a systematic review and meta-analysis. Front Public Health. 2025;13:1617272. DOI: 10.3389/fpubh.2025.1617272
3. Tang L, et al. Optimal dose and type of exercise to improve depressive symptoms in older adults: a systematic review and network meta-analysis. BMC Geriatr. 2024;24:505. DOI: 10.1186/s12877-024-05118-7
4. Janssen NP, et al. Behavioural Activation versus Treatment as Usual for Depressed Older Adults in Primary Care: A Pragmatic Cluster-Randomised Controlled Trial. Psychother Psychosom. 2023;92(4):255-266. DOI: 10.1159/000531201
5. Janssen NP, et al. Functional improvement by behavioural activation for depressed older adults. Eur Psychiatry. 2023;66(1):e62. DOI: 10.1192/j.eurpsy.2023.2433
6. Li H, et al. Mindfulness-Based Cognitive Therapy Regulates Brain Connectivity in Patients With Late-Life Depression. Front Psychiatry. 2022;13:841461. DOI: 10.3389/fpsyt.2022.841461
7. Baker LD, et al. Structured vs Self-Guided Multidomain Lifestyle Interventions for Global Cognitive Function: The US POINTER Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025;334(8):681-691. DOI: 10.1001/jama.2025.12923
8. Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628. DOI: 10.1016/S0140-6736(24)01296-0
9. World Health Organization. Integrated care for older people (ICOPE): guidance for person-centred assessment and pathways in primary care. 2nd ed. 2025.
----------------------------------------------------------------------
リハビリジム プライズネス
〒063-0812
北海道札幌市西区琴似2条3-1-1 チェストオオイビル3階
電話番号 : 011-600-6048
札幌の高齢者向けリハビリジム
札幌で痛みの根本からの改善なら
札幌で病気後の身体をサポート
----------------------------------------------------------------------


