40代から始まる「筋パワー」の低下|加齢で体に何が起こる?理学療法士が解説【札幌・琴似】
2026/09/08
「以前と同じ重さは持てるのに、動きが少し鈍くなった気がする」。
40代になって、階段を素早く上がる、立ち上がる、とっさに一歩を出すといった動作に、 以前とは少し違う感覚を覚える方もいるのではないでしょうか。
こうした変化を考えるうえで重要なのが、単なる「筋力」だけではなく、 「筋パワー」という能力です。
加齢では筋肉量や筋力だけでなく、「素早く力を発揮する能力=筋パワー」も低下します。 研究では40歳前後から筋力・筋パワーの低下が確認されており、 中高年以降では筋パワーの低下が身体機能に大きく関係することが分かってきています。
40代から筋力は落ち始める?
「筋力が落ちるのは、もっと高齢になってから」と思っている方も少なくありません。
しかし、長期間にわたり人の身体機能を追跡した研究では、 変化はもっと早い時期から始まっていることが報告されています。
Metterらは、20歳代から80歳代までの男女を対象として、 上肢の筋力と筋パワーを長期間追跡しました。 その結果、男女ともに40歳までに筋力と筋パワーの低下が始まっていたことが報告されています。[1]
さらに男性では、その後の筋パワーの低下量が筋力の低下量より約10%大きいという結果でした。 一方、女性では筋力と筋パワーの低下量の差は統計学的に明確ではありませんでした。[1]
もちろん、この研究は上肢を評価したものであり、 「40歳になった瞬間に全身の筋力が急激に落ちる」という意味ではありません。
しかし、40代は身体機能の変化を意識し始める一つの時期として考えることができます。
2023年の研究でも「中年期からの筋パワー低下」が確認されている
さらに興味深いのが、2023年に発表された10年間の縦断研究です。
19〜68歳の489名を対象に、膝を伸ばす筋肉の「力」「速度」「最大筋パワー」を測定し、 10年後に再評価しています。[2]
その結果、最大筋パワーは、
- 20〜40歳の男性:約0.6%/年
- 40〜60歳の男女:約1.1〜1.4%/年
- 60歳以上:約2.2〜2.4%/年
という低下が観察されました。[2]
そして年齢が高くなるにつれ、単純に「力が弱くなる」だけではなく、 力を発揮するときの速度も低下していくことが示されています。
筋肉量・筋力・筋パワーは同じではありません
ここで一度、言葉を整理してみましょう。
| 項目 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| 筋肉量 | 筋肉そのものの量 | どれくらい筋肉があるか |
| 筋力 | 発揮できる力の大きさ | どれだけ重いものを持てるか |
| 筋パワー | 力を素早く発揮する能力 | どれだけ素早く身体を動かせるか |
筋パワーは、簡単に表すと
パワー = 力 × 速度
です。
同じ筋力を持っていても、その力を0.2秒で発揮できる人と、 1秒かけなければ発揮できない人では、実際の動作能力は大きく異なります。
なぜ筋パワーは加齢の影響を受けやすいのか?
加齢すると、単純に筋肉が小さくなるだけではありません。
神経と筋肉を含めた「神経筋機能」そのものが変化していきます。
国際的な専門家コンセンサスやレビューでは、 加齢に伴う筋パワー低下の背景として、 速い収縮を得意とするType II(速筋)線維の選択的な萎縮や、 神経筋系の変化などが指摘されています。[3][4]
つまり、
- 力そのものが弱くなる
- 筋肉を素早く働かせにくくなる
- 大きな力に到達するまでに時間がかかる
といった変化が重なり、「素早く動く能力」が低下していくと考えられます。
日常生活では「最大筋力」よりパワーが必要な場面が多い
実際の日常生活を考えてみましょう。
私たちは普段、何秒もかけて最大筋力を発揮することはほとんどありません。
例えば、
- 椅子から立ち上がる
- 階段を上る
- 横断歩道を少し急いで渡る
- つまずいた瞬間に一歩を出す
- バランスを崩したときに身体を支える
といった動作では、必要な力を短い時間で発揮することが求められます。
システマティックレビューでも、筋パワーは歩行や立ち上がりなどの身体機能と関連し、 高齢期の身体機能を考えるうえで重要な指標であることが報告されています。[5]
「まだ重いものを持てるから大丈夫」とは限らない
ここが今回、一番お伝えしたいポイントです。
健康づくりでは「筋力を落とさないこと」がよく強調されます。 もちろん、筋力トレーニングは非常に重要です。
しかし、
とは限りません。
筋パワーは筋力とは別の要素を含んでいるため、 「どれだけ強いか」だけでなく、 「どれだけ速く力を発揮できるか」にも目を向ける必要があります。
加齢による変化は避けられない。でも、何もしないのとは違う
加齢そのものを止めることはできません。
しかし、「年齢を重ねる=必ず同じ速度で身体機能が低下する」というわけでもありません。
国際的な運動コンセンサスでは、身体活動や適切な運動を行うことで、 加齢に伴う筋機能や全身持久力の低下を大きく抑えられる可能性が示されています。[4][6]
重要なのは、身体機能が大きく落ちてから慌てることではなく、 まだ動ける40代・50代から、将来に向けて身体能力を維持していくことです。
では、筋パワーはどうやって鍛えるのか?
「それなら、とにかく速く筋トレをすればいいの?」
と思うかもしれません。
実はそう単純ではありません。
パワートレーニングでは、 負荷・速度・フォーム・運動経験・身体機能を考えて行う必要があります。
次回は、
- 普通の筋トレとパワートレーニングの違い
- 研究で使われている負荷量
- 40〜60%1RMとはどの程度なのか
- 40代から安全に取り入れる方法
- 高齢者でもパワートレーニングはできるのか
について、研究をもとに詳しく解説します。
筋力だけでなく「速く力を出す能力」をどう鍛えるのかを解説します。
よくある質問
Q. 筋力は何歳くらいから低下しますか?
個人差がありますが、長期追跡研究では筋力や筋パワーの低下が40歳までに始まっていたことが報告されています。 ただし、40歳を境に突然低下するわけではなく、運動習慣などによって変化の程度は異なります。
Q. 筋力と筋パワーは何が違いますか?
筋力は「どれだけ大きな力を出せるか」、筋パワーは「その力をどれだけ速く発揮できるか」です。 筋パワーは力と速度の両方によって決まります。
Q. 40代から筋トレを始めても遅くありませんか?
遅くありません。中高年以降でも筋力や筋パワーはトレーニングによって改善できます。 大切なのは、年齢や身体機能、運動経験に合わせて適切な負荷を設定することです。
まとめ
加齢による身体の変化を見るときは、「筋肉が減った」「筋力が落ちた」だけでは十分ではありません。
力をどれだけ速く発揮できるかという「筋パワー」も、将来の動作能力を考える重要な要素です。
40代はまだ十分に動ける年代です。 だからこそ、この時期から将来のための身体づくりを始める意味があります。
札幌・琴似のリハビリジム プライズネスでは、 理学療法士が身体の状態を確認し、一人ひとりに合わせた運動を提案しています。 「筋力はあるはずなのに動きにくい」「以前より歩く・立つ動作が遅くなった」と感じている方は、 身体機能を一度客観的に確認してみることも大切です。
参考文献
- Metter EJ, Conwit R, Tobin J, Fozard JL. Age-associated loss of power and strength in the upper extremities in women and men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1997;52(5):B267-B276. doi:10.1093/gerona/52A.5.B267
- Alcazar J, Rodriguez-Lopez C, Delecluse C, et al. Ten-year longitudinal changes in muscle power, force, and velocity in young, middle-aged, and older adults. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023;14(2):1019-1032. doi:10.1002/jcsm.13184
- Reid KF, Fielding RA. Skeletal muscle power: a critical determinant of physical functioning in older adults. Exerc Sport Sci Rev. 2012;40(1):4-12. doi:10.1097/JES.0b013e31823b5f13
- Izquierdo M, Merchant RA, Morley JE, et al. International Exercise Recommendations in Older Adults (ICFSR): Expert Consensus Guidelines. J Nutr Health Aging. 2021;25(7):824-853. doi:10.1007/s12603-021-1665-8
- Byrne C, Faure C, Keene DJ, Lamb SE. Ageing, Muscle Power and Physical Function: A Systematic Review and Implications for Pragmatic Training Interventions. Sports Med. 2016;46(9):1311-1332. doi:10.1007/s40279-016-0489-x
- Izquierdo M, de Souto Barreto P, Arai H, et al. Global consensus on optimal exercise recommendations for enhancing healthy longevity in older adults (ICFSR). J Nutr Health Aging. 2025;29(1):100401. doi:10.1016/j.jnha.2024.100401
※本記事は一般的な健康情報を目的としたものです。 痛みや疾患がある場合、また運動に不安がある場合は、医師・理学療法士などの専門家にご相談ください。
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